【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(しかし、これからどうしよう)


 もう一度、同じ切り口で財部に突撃したとして、戦果を挙げれるとは思えない。

 他のルート――――シリウスの家に保管されていた財政資料は、刑部の人間に全て持ち出されてしまった。調査の妨げになるため、こちらも現状、閲覧申請をすることはできない。

 また、極秘に行われた事情聴取にはカールも立ち会えたようだが、シリウスの両親は謝るばかりで、それ以上の情報を話そうとしない。


(謝るってことは、不正の意図があった、って考えられなくもないけど)


 聞けば、マッケンジー家の王家への忠誠心は篤く、本来このようなことに手を染めるような家系ではないらしい。仮に不正を犯していたとしても、相当の理由があるはずだ――――というのが、カールやコーエン達の考えなのだが。


(分からない……どうしてそんなこと)

「もしもしお嬢さん」


 クララはハッとして、思わず足を止めた。

 テノールのどこか柔らかな声。振り向けば、クララを見つめる鳶色の瞳がゆっくりと細められる。


「何かお悩み事かな?」


 金色の刺繍が入った扇子を片手に、ゆっくりとクララの元へ近づいてくるのは、今後の鍵を握る人物。クララが今、一番憎らしく、そして求めていた男だ。


「ヨハネス殿下」


 クララは恭しく頭を垂れつつ、密かに周囲を窺う。
 ヨハネスは今、レイチェルも、他の供人も連れていないらしい。


「僕で力になれるかな?」


 一房掬ったクララの髪の毛に口付けながら、ヨハネスは首を傾げる。何処か色っぽい、含みのある表情。ざわりと音を立てて草木が揺れる。

 クララはゴクリと唾を呑んだ。


「もちろん。……聞いていただけますか?」


 ゆっくりと瞳を細め、ヨハネスの手に己の手のひらを重ねる。

 ヨハネスはニヤリと微笑むと、クララの手を引いて、どこかへ移動を始めた。
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