【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

29.契約と対価

 熱い日差しを遮るように設置された木々と、色とりどりに美しく咲き誇る花達。
 クララはヨハネスに連れられ、彼の宮殿の奥にある庭園へと来ていた。


「ここに来るのは初めて?」

「はい。とても美しい場所ですね。ここは夏の庭園でしょうか?」

「その通り。季節ごとに自然を楽しみたいからね。東には春、南には夏、西は秋、冬は北という具合に庭園を作ってるんだ」


 ニコニコと笑いながら、ヨハネスはクララを見つめる。

 目の前の庭園は規模は小さいものの、デザインといい手入れ具合といい、細部に造り手の愛情とこだわりが見受けられる。きっと、ここ以外の他の庭園も、素晴らしい出来栄えなのだろう。


(なるほど……ヨハネス殿下は宝飾類だけじゃなくて、こういうものもお好きなのね)


 目の前には侍女たちが運んでくれた、アイスティーや菓子が並ぶ。季節のフルーツをふんだんに使ったそれらはとても華やかで、見ているだけで涼を感じられた。


「お気に召したかな?」

「……はい、とても」


 クララは正直ヨハネスのことを、金遣いの荒い品のない人間だと思っていた。けれど、彼は別に一つの産業に傾倒しているわけでもなく、高ければそれで良いというようなお金の使い方もしていない。案外、色んな所にお金が行き渡るよう工夫をしているのかもしれない。


(なんて、予算規模も知らなければ決算報告書を見たわけでもないし、なんとも言えないけど)


 ふぅ、とため息を吐きつつ、クララはそっとヨハネスを覗き見た。


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