【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「あの、今日はレイチェル様は……?」


 普段、ヨハネスにピタリと密着して回るレイチェルの姿が今日はない。ヨハネスは「あぁ」とと言って微笑みながら、そっと身を乗り出した。


「彼女は今、里下がりをしているんだ。少し体調を崩していてね」

「そうですか。心配ですね」


 社交辞令だけど、と心の中で付け加えながら、クララは小さく首を傾げた。


(それにしても)


 レイチェルはちょっとやそっとのことで、里下がりをするようなタイプには見えない。城には医師もいれば、世話をしてくれる侍女だっている。わざわざ不調をおして、自宅に帰る意味などないように思えるのだが。


「ああ見えて、繊細な子なんだよ?幼馴染のシリウスが謹慎処分を受けてしまったからね。相当ショックを受けているみたいなんだ」

「シリウス様と?」


 思いもよらぬ繋がりに、クララはそっと身を乗り出す。

 今ここにいるのは、シリウスの件に関する突破口を開くためだ。ヨハネスならばクララたちが求める資料を入手できるかもしれない。だからクララは、なんとかしてヨハネスに取り入らなければならないのだが。


(焦ってはダメ)


 急いては事を仕損じる。

 ヨハネスはクララから見て、損得勘定で動くタイプのように思える。けれど、現状、彼の得になる話をクララは提示できそうにない。そんなタイミングで資料の件を持ち出しても、ヨハネスから色よい返事を引き出すことは出来そうにないと思ったのだ。


「シリウスも気の毒だよね。カールの下に就いたばかりに、こんな目に合うんだもの」


 表向き、彼の謹慎理由は『カールの側近としての鍛錬が足りていないから』ということになっている。クララは小さく頷きつつ、そっと首を傾げた。


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