【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 唇が熱い。きつく吸われて、息すらもできなくなって。


(こんなの、さよならのキスじゃない)


 コーエンの青い瞳も、抱き締める腕も、クララをちっとも放してくれそうにない。
 甘くて苦くて熱くて切なくて。堪らない。


「コーエン……あの」

「――――俺以外の人間と結婚するなんて絶対認めない」


 瞳が触れ合いそうなほどの距離で、コーエンが言う。


「相手が俺じゃなくても良いなんて、嘘でも言わせないから」

「コーエン!だけど……」

「そんな契約、俺が全部ぶち壊してやる!」


 ドクンと音を立ててクララの心が震えた。


「クララの願いも、ヨハネスとの取引条件も、俺が何とかする!全部叶えて、絶対に俺がクララを迎えに行くから」

(そんなこと)


 できるはずがない。そう思っているはずなのに。

 コーエンが口にすれば、どんな無茶なことでも叶ってしまう。そんな錯覚をしてしまいそうなくらい、コーエンの眼差しは熱く、自信に満ち溢れていた。


(あんなに自分に言い聞かせたのになぁ)


 ポロポロと涙が流れ落ちる。悲しみも切なさも、憂いも、全てが涙と一緒に流れ落ちていくようだった。

 コーエンはクララの額に優しく口づけると、執務室を後にした。ひたすらに甘く疼く額と心を持て余し、クララはじっとコーエンの去った扉を見つめ続ける。


(わたし……待っていても良いのかな?)


 ギュッと己を抱き締めながら、クララは一人、幸せな気持ちで泣き崩れたのだった。
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