【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(それにしても)


 コーエンは、クララが借りてきた大量の資料を持ち去った。城内で姿を見かけることがないので、どこかへ出掛けているのだろう。


(心配……だなぁ)


 いや、心配というのは語弊があるのかもしれない。
 目を瞑れば浮かび上がる、明るい笑顔。真剣な眼差し。クララを見て嬉しそうに綻ぶ唇。


(コーエンに会いたい)

「っ……と」


 はぁ、とため息を吐いた所で、クララははたと立ち止まった。
 目の前で揺れる、蜂蜜のような色をしたブロンド髪。風に舞って漂う、強い花の香り。

 両手に書類の山を抱え、憂い顔を浮かべたレイチェルがそこに立っていた。


「御機嫌よう」


 さすがに、何も言わずに済ますわけにはいかない。両手が塞がっているため、クララは言葉と仕草で挨拶をする。

 けれど、レイチェルはチラリとクララを一瞥すると、小さくため息を吐いた。どうやら挨拶を返す気はないらしい。


(別に良いけど)


 クララは唇を尖らせつつ、レイチェルを覗き見た。


「体調、悪いって聞いたけど……少しは良くなったの?」


 実家から戻ってはきたようだが、レイチェルの顔は、どこか青白い。無理をして戻って来たのだと予想がついた。


「そんなの、あなたには関係ないでしょ」


 レイチェルはそう言ってふいと顔を背けると、踵を返した。
 とはいえ、向かう先はどうやら同じらしい。クララはゆっくりと、彼女の後に続く。


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