【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「スチュアート様、お戻りください!」

「ここから先はお通しできません!」

(ん?)


 広間に複数の男性の声が響いた。


「黙れ!誰に口を利いていると思ってるんだ!」


 見れば、喧騒の中心には、恰幅の良い男性が一人。周囲に集まった騎士たちをものともせず、闊歩している。


「陛下と話がしたいと言ってるだろう!取次は済んだのか!?」

「ですからなりませんと!」

(あれは確か……)


 いつかの夜会で、クララはあの男がレイチェルと共にいるのを見かけたことがある。騎士たちが頻りにスチュアート、という呼んでいることからも間違いないだろう。

 財務大臣――――レイチェルの父親であるスチュアート伯爵だった。


「何をボサッとしている!これは命令だ!さっさとしろ!聞かぬなら――――」

「大臣職を解任されたあなたに、私たちへの命令権はありません」


 騎士たちはピシャリとそう言い放つと、伯爵の行く手を阻んだ。


(大臣職を解任された!?)


 思わぬことに、クララは目を見張った。

 大臣の罷免権を持つのは、国王のみ。けれど、権利を行使できるのは、余程の不正や不信任行為があった時だけだ。

 下級官の場合にも、通常、人事に関することは、先にじわじわと噂が広まり、後から何かしらの処分が下されることが多い。だからこそ、今回のことは、寝耳に水だった。

 レイチェルの父親は、娘とは違って処世術に長けていたし、王の信頼も篤い。そのために、レイチェルがヨハネスの内侍として上がったのだろうし、こんな形で解任に追い込まれるとは、想像もしていなかったのだ。


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