【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「ジェシカ王女……?」


 クララは当然、その名を知っている。

 国王と皇后の唯一の子で、三人の王子たちの妹。
 そして、コーエンを王太子にできる人――――。彼の想い人だと、そう思っていた。


「そう、それがボクの本当の名だよ」


 ジェシカは目を細めて笑うと、クララを真っ直ぐに見つめた。


「ボクはね、この王位継承戦のオブザーバー役を仰せつかっていたんだ。兄たちの側にいて、彼等を見守ること、それから王位を継ぐ気のないフリードを、この継承戦に最後まで参加させること、それがボクの仕事だった」


 次々に明かされていく真実。けれど、ジェシカはまだ、一番重要なことをクララに教えてくれていない。


「だけど、でも…………それじゃあフリード殿下は――――」


 クララがフリード殿下だと思っていた人は、実はジェシカ王女だった。

 そして、ジェシカはフリードを側近くで監視する役割を担っていた。この、王位継承戦に参加させるために。そうして今、フリードは次の王太子に指名された。


(まさか……まさか…………)

「フリードはそこにいるよ」


 ジェシカはそう言って朗らかに笑った。


「ずっとずっと、クララの隣にいたんだよ」


 手のひらがじんじん疼く。目頭が熱くてたまらない。


「クララ――――」


 ようやくコーエンが口を開いたその時だった。

 クララはコーエンの手を勢いよく振り払うと、全速力で広間を駆け出していた。
 
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