【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

36.必然と運命とコーエンの願い

「クララ、待って……クララ!」


 遠くからコーエンの声が聞こえる。


(知らなかった……!わたしだけが、なにも!)


 クララは人の波に紛れるようにして、全速力で走っている。裾を捲り上げ、息を切らし、必死に足を動かす。
 淑女としての体面なんて、どうでも良かった。ただただ、この場から逃げ出したい。


(どうして気づかなかったんだろう)


 思い返してみれば、ヒントはずっと、与えられていた。
 コーエンもフリードも。クララが自力で気づけるよう、必要な情報を少しずつ与えてくれていた。
 完全にクララを騙そうと、そう思っていたわけでは無かったはずなのに。


(恥ずかしい!恥ずかしくて、もう、皆の顔が見られない!)


 燃えるように顔が熱い。涙が止め処なく流れるし、頭の中はぐちゃぐちゃだった。


「クララ!」


 コーエン――――いや、フリードの声が聞こえる。

 走って走って、いつの間にか騎士たちも文官もいない方向へ向かっていて。気づいたらクララは城内から飛び出していた。遮るものは何もない。最早追い付かれるのは時間の問題だった。


(無理!今はコーエンと会いたくない!)


 酷い顔をしている自覚がある。こんな顔、とてもじゃないが、コーエンには見られたくなかった。


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