【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「クララ!」


 その瞬間、勢いよく後から抱きすくめられて、クララは息を呑む。


「クララ」


 コーエンがクララの名を呼ぶ。
 胸が千切れそうなぐらいに痛い。
 ブンブンと頭を横に振ってみても、コーエンは腕の力を強めるばかりだ。


「話を聞いて。これまでのこと、ちゃんと説明させてほしい――――」

「無理!今はわたし、頭の中がごちゃごちゃで!訳わからないことになってて!」


 ボロボロと流れ落ちる涙が、コーエンの腕を濡らす。


「きっとコーエンに……殿下に酷いことばかり言っちゃう!だから、しばらく放っておいて」


 顔を見せぬようにして藻掻きながら、クララは頭を振った。


(もっと早くに打ち明けてほしかった。最初からちゃんと、コーエンが王子だって分かってたら、こんな風に悲しい思いをしなくてよかったのに)


 頭の中に浮かぶ、汚い言葉の数々。
 こんな言葉、コーエンに聞かせたくはない。
 どんなに傷ついていたとしても、コーエンの前では、可愛い女の子でいたかった。


「今までずっと、嘘を吐いてて――――本当にゴメン」


 背中に感じる温もり。クララは眉間に皺を寄せる。


「クララを傷つけた。悲しい思いをさせた。本当に、反省してる」

(ううん――――悲しいとは少し違う。ショックだったけど、でも)


 自分の気持ちがうまく整理できない。相変わらず涙はポロポロと零れ落ちるが、そこから前にも後にも進めずにいる。


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