【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「クララが気の済むまで、俺を詰って。幾らでも殴っていいから」


 縋るように抱き締めながら、コーエンが言う。心が切なく疼くような声音。


(そんなこと、するつもりない)


 けれど、どうすれば良いのかも分からない。
 ついつい救いを求めて、振り返りたくなる。コーエンの顔が見たくなってしまう。


「――――だけど、頼む。俺の側からいなくならないで。殿下じゃなくて、いつもみたいにコーエンって呼んで」


 トクンと音を立ててクララの心臓が跳ねる。
 

「絶対、絶対放さない。ようやく捕まえたんだ」


 切なげな声音が、心をかき乱した。


(コーエン)


 これまで、コーエンに貰った、たくさんの言葉たち。彼の立場を知らなかったが故に、素直に受け取れなかったものも多かった。

 けれど、今はもう違う。

 あまりにも大きな嘘が一つあったものの、それ以外は――――コーエンが口にしたことは皆、彼の本心だった。彼がクララを想う心には、何一つ偽りが無かったと信じたい。


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