【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「ねぇ……どうして、嘘を吐いたの?」


 ポツリと、呟くようにクララが尋ねる。
 振り返りはしない。けれど、コーエンの腕をそっと抱き返しながら、少しずつ少しずつ、自分の心が落ち着いていくのを感じていた。


「――――――俺さ、クララと出会うまで、王太子になりたいって思ったことが無かったんだ」


 コーエンはクララの肩に顔を埋めつつ、そう口にする。


「国のことはすごく大切に思っているし、公務も好きだ。多分、他の王子と同じかそれ以上に、その想いは強いと思う。だけど、俺には王太子なんて役職は必要ない。今のままでも仕事はできるし、そのままで良いって、そう思ってたんだ」


 聞きながらクララは、以前シリウスが、フリードに王位を継ぐ意志がないと話していたことを思い出す。


(そっか……そうよね。あれは、コーエンの話をしていたんだ)


 まるでパズルのピースを組み立てるかのような――――最後のピースを見つけたかのような緊張と高揚感。クララはゴクリと唾を呑んだ。


「だけど、父上は存外、俺が王太子になることを望んでいるようだった。ジェシカを監視役に置いて継承戦に参加させる程、俺に適性があると思っている。俺の考えとは裏腹に」


 コーエンは一度深呼吸をすると、クララの身体を抱き締めなおした。


「だから俺は、『本当に俺が王太子に相応しい人間ならば、王子としての身分を隠しても、そうと望まれるはずだ。逆に、そうでないなら、俺には次期王としての資格はない』……そう伝えたんだ」


 何故だろう。その途端、クララの目頭が熱くなった。


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