【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「会いたかった」


 耳元で甘く囁かれ、胸がときめく。


「わたしも会いたかった。コーエンと一緒に行きたかったなぁ」


 コーエンは王太子として、これまで以上に忙しい日々を送っていた。陛下直々に後継者教育を受ける他、王太子として、割り当てられた公務も増えている。
 この数日間は地方への視察に出掛けていたため、会うのはかなり久しぶりだ。王妃教育や城内の仕事の兼ね合いから、クララは一人、留守番を余儀なくされたのである。


「クララに会いたくて、真っ先に宮殿に向かったんだ。それなのに部屋に居ないから驚いた」


 コーエンは言いながら、非難がましい視線をカールに送る。対するカールは、コーエンの視線を平然と受け流すと、フンと小さく鼻を鳴らした。


「帰るぞ、イゾーレ」


 イゾーレの肩を抱き、カールは颯爽と踵を返す。
 けれど、その刹那。一瞬だけ見えたカールの表情が『絶対、また扱いてやる』と如実に物語っていた。


(困ったなぁ……カール殿下は頑固だもの)


 ついついため息が漏れる。そんなクララを、コーエンはもう一度抱き締めた。


「カールには俺からキツく言っておくよ。ただでさえ、仕事と王妃教育の両立で大変なんだし、勝手にああいうことするなってさ」


 ポンポンと頭を撫でられ、胸が甘く疼く。
 けれど、クララは小さく首を横に振ると、真っ直ぐにコーエンを見上げた。


「ありがとう、コーエン。だけどね、もう少し頑張ってみようかなって思っているの。カール殿下の言う通り、わたしの体力が無いのは確かだし。いざという時に自分の身を護れた方が良いでしょう?」


 イゾーレ程強くなることは出来ないだろうが、せめてもう少し強くなりたい。心の中で意気込めば、コーエンは悪戯っぽく目を細めた。


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