【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「~~~~~~~~~~っ、ホント嫌な奴だよな、おまえは」


 シリウスはそう悪態を吐きながらもコーエンの手を取った。言葉とは裏腹に、その表情は楽し気だ。張り詰めた空気が一気に弛緩し、周囲は再びざわめきを取り戻す。クララもほっと息を吐きながら、そっと群衆を離れた。


(すごい……まだドキドキしてるわ)


 風が頬を撫でるのが気持ち良い。高まった熱は簡単には醒めてくれそうにない。

 少し離れた所からクララはコーエンをそっと見つめる。初対面の時と今とでは彼の印象は随分変わってしまった。物凄く嫌な奴だと思っていたのに、それが案外良い人に変わって。いつの間にか敬意まで抱いてしまっている。

 すると、ふとコーエンがこちらを見た。クララの心臓が知らず大きく跳ねる。


「おい、クララ!ちゃんと見てたのか?」


 コーエンはそう言って笑顔を浮かべた。


「…………っ」


 いつものように、意地悪だったり不敵だったり、気だるげだったり……そんな笑顔だったらこんな風に心が揺さぶられることはなかったのだろうか。今のコーエンはそういった要素の一切ない、穏やかで晴れやかな笑顔だ。


「み、見てたわよ。ちゃんと」


 何故だろう。先程からコーエンの顔が直視できずにいる。

 少しずつこちらに近づいてきているのが分かるのに、クララは視線を彷徨わせることしかできない。ドキドキと心臓が騒いで落ち着かなかった。


「クララ――――」

「相変わらずだな、おまえは」


 コーエンがクララの名を呼んだその時、背後から聞きなれぬ声がした。低く重圧的なその声にビクリと身体を震わせつつ、クララはそっと後を振り返った。
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