【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「お帰りなさい、コーエン」


 二人きりの執務室内、ギュッと力強く抱き締められる。コーエンの温もりが、香が、酷く懐かしい。ヨハネスの情報提供のせいだろうか。目頭がほんのりと熱い。


(もしかしたらわたし、情緒不安定なのかも)


 そんな自分を誤魔化すかのように、クララはコーエンの胸に顔を埋めた。


「陛下のお話は? 何だったの?」

「ああ――――なんでも、近々ジェシカと剣舞を披露しなきゃいけないんだってさ」

「剣舞を?」


 てっきりはぐらかされると思っていたため、クララはいささか驚いてしまう。


(もしかして、アリス殿下の話じゃ無かったのかしら?)


 本当のところは分からないが、ヨハネスの勇み足ということも十分にありうる。情報とはそういうもの。収集、分析、取捨選択し、適切に動かなければならない。
 為政者は我慢強くあれ、とはヨハネスの教えだ。もう少し踏み込んでみたいところだが、これ以上の詮索は無用だろう。


「公務ばっかで身体が鈍ってるし、感覚も忘れてるから練習しなきゃな」


 コーエンはそう言って、小さくため息を吐く。


「頑張ってね、コーエン」


 頬にそっと口づければ、コーエンは至極嬉しそうに笑った。


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