【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 本当ならば王妃は、クララが内侍と決まる前にこうした席を設けたかったのだろう。
 けれど王妃は身分上、簡単に城を出ることはできない。

 それに、クララだって貴族といえど気軽に登城が可能なわけではない。それ相応の手順を踏み、ボディチェック等々を経たうえで、ようやく中に入ることが許されるのだ。

 特に女性は、男性よりも厳格にチェックを受ける必要がある。城で働く女性の絶対数は、男性のそれと比べて圧倒的に少ないし、信用も薄い。本当に登城が可能な身分なのか、じっくり調べられる必要があるのだ。

 同様に城内での制限も、男性のそれに比べて多いのだが、決まりだから仕方がないとクララは思う。


「そんな話して楽しいものか?」


 コーエンはそう言って眉を顰める。思わぬ言葉にクララは目を丸くした。


「よく知りもしない相手に愛想笑い浮かべるってだけで、俺は苦痛で堪らないけどな」


 おぇ、と口元を歪めながら、コーエンはチラチラとクララを見つめている。


(コーエンったら、なんでそんなこと……)


 コーエンは先程から、自分の考えを話しているようでいて、実はそうではないとクララは思う。

 一緒に仕事をしてきて分かったことだが、彼は案外口数が多い。
 直接業務に必要なことから、一見無駄に感じられることまでアレコレずっと喋っている。それはきっと、彼がコミュニケーションが如何に重要か、分かっているからだろう。

 実際、この数日の間に、彼が何気なく話していた内容が何度もクララを助けてくれた。
 そんな風に考えると、コーエンの一連の発言は、クララが不満を吐き出しやすいようにとの配慮に感じられるのだ。


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