【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(どうしよう……殿下とコーエンになんて説明したら…………)


 クララが呆然としている内に、手の甲に柔らかな感触が触れた。見ればヨハネスがクララを見上げながら、悪戯っぽく微笑んでいる。


「かっ、軽々しくそういうことをなさらないでください!」


 クララは手を振り払いながら、頬を赤らめた。コーエンといいフリードといい、城の人間はどうしてこうもパーソナルスペースが狭いのだろう。そう思わずにはいられなかった。


(まぁ、フリード殿下とヨハネス殿下は血を分けた兄弟だものなぁ)


 やはり血は争えない、ということなのかもしれない。
 ヨハネスは楽し気に微笑むと、そっとクララの耳元に唇を寄せた。


「だって仲良くしておいた方が良いと思わない?もしも僕が王太子になったら、君は僕の妃になる可能性もあるんだし」

「…………えっ」


 クララの心臓がザワザワと騒ぐ。ヨハネスの青い瞳が妖艶に光った。


(ヨハネス殿下は知っているんだ)


 前回の王太子選抜で何が起こったのか。どうして国王――――自分の父親に3人の妃がいるのか。
 そしてそれがクララの将来に起こりうることを明示している。なんとも残酷な笑顔で。


(もしかして、フリード殿下も御存じなのかしら?)


 おいそれと口にすることは憚られる話題のため、フリードにもコーエンにも、王妃から聞いた過去については伝えていない。

 けれど、既に知っている可能性が高いなら話は別だ。今後のためにも、クララのおかれた状況を改めて共有した方が良いのかもしれない。


「その様子なら、君は知っていたみたいだね」


 耳元でなおもヨハネスの声が響く。ゴクリと唾を呑みながら、クララは眉間に皺を寄せた。


「そういうわけだから、悪く思わないでね」


 気づけばクララはヨハネスの執務室を追われ、無機質な扉を見つめていた。



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