【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「と、いうわけでして」


 最後の方のくだりだけを省略し、クララはフリードたちにヨハネスとのやり取りを説明する。
 盛大なため息が自然、口から漏れた。


「まぁ、あの二人相手に頑張った方なんじゃない?」


 コーエンはぶっきら棒に呟きながら、クララを見つめる。
 ズタボロになっていた心が、ほんの少しだけ穏やかになった。


「うんうん。クララは良くやってくれたよ」


 フリードはまるで犬でも撫でるかの如く、クララの頭を撫でてくれる。じわりと瞳に涙が溜まった。


「おっ、おい。クララ?」


 コーエンは普段の不敵さは何処へやら、慌てたようにクララの方へ駆け寄る。


「っていうか、割振りは最初からほぼほぼ決まってたんだよ。おまえが気にする必要ないから、な?」

「……っ、ごめ、なさい」


 己の無力さが、こんなことで涙を流してしまう自分の弱さが、クララには腹立たしくて堪らない。早く泣き止もうと思うのに、心も身体も言うことをきいてくれない。

 そのとき、クララの身体がふわりと包み込まれた。微かに香る花の香り。フリードがクララのことを優しく抱き締めていた。


「大丈夫、大丈夫」


 まるで子どもをあやすかのような声。ささくれだらけの心が安らいでいく。


(慰められたいわけでも、許されたいわけでもないはずなのになぁ)


 それでも、ひとの温もりというものは抗いがたい。クララはフリードの胸に顔を埋めながら、そっと涙を流した。
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