【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「――――――衣装の件、ありがとうございました」

「え?」


 唐突にそんな言葉が聞こえ、クララは顔を向ける。声の主はイゾーレだった。
 相変わらず無表情のままだが、真っ直ぐにクララを見つめている。


「カール殿下と私だけでは、本当に面白みも飾り気もない、そんな宴になるところでした」

「いえ……わたしは何も」


 まさかイゾーレがそんなことを言ってくるとは、クララは思ってもみなかった。余計なことを、と冷たくあしらわれるか、何の反応もないかのどちらかだと思っていたからだ。


「こういうとき、私はどのように振る舞うのが正解なのか分かりません。以前夜会に出席した時、誰も私に寄り付こうともしませんでした。それ以降、そういった席からどんどん足が遠のいて、何が好ましい状況なのかも分からないのです」

「えっと……そうなんですねぇ」


 イゾーレは大層美しい少女だ。雪のような真っ白い肌、彫刻のように美しい目鼻立ちに、深みのある青の瞳。その美しさに大将の娘という身分が加わって、彼女は正に高嶺の花。軽々しく近寄れる人間はそういない。

 おまけに、勇気を出して話し掛けたとしても、氷の如き冷たさであしらわれてしまうのだ。会話が続けられる人間はもっと限定されてしまうだろう。


(うーーん、なんと声を掛けてあげるべきなんだろう)


 イゾーレに社交性がないことは事実だ。それを『そんなことないよ』と言うのも違うし、かといって事実を教えてあげることも少し憚られる。クララはこっそりと頭を悩ませた。


「スカイフォール様」

「はっ……はい、何でしょう?」


 イゾーレに話し掛けられるたび、クララは何だかビクリと身構えてしまう。最近顔を合わせるのがカールの側だったせいで、威圧感がインプットされてしまったのかもしれない。何となくイゾーレに申し訳なく思った。


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