【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(この舞がわたしだけのものだったら良かったのに)


 違うと分かっていて、そんなことを考えてしまうあたり重症だ。
 けれど、コーエンがクララだけを想って剣舞を披露してくれたら、どんなに幸せだっただろう。どうしてもそう思ってしまうのだ。

 最早、自分の気持ちに嘘は吐けそうにない。

 どんなに気持ちに蓋をしたところで、クララはコーエンのことばかりを見ている。考えている。触れられた時の心の高鳴りを反芻して、もっと触れてほしいと望んでしまっているのだ。

 舞台の上、舞はクライマックスを迎えようとしている。激しい足捌きに剣が宙を舞う。

 その刹那、コーエンとクララの視線が絡んだ。

 まるで心臓が止まったかのようだった。呼吸すらも忘れ、指先だって動かせない。心を鷲掴みにされた。されてしまった。

 遠く離れているのに、コーエンの息遣いが聴こえてくる。上気した頬と、何か熱いものを秘めた瞳。クララを見て、嬉しそうに弧を描く薄い唇。どうしようもなく心を乱されて、クララは思わずその場にしゃがみ込んだ。


「クララ?」


 ワグナーがビックリしてクララを覗き込む。


(無理……とても勝てそうな気がしない)


 胸を押さえて蹲りながら、クララは心の中で白旗を振ることしかできなかった。
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