【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(コーエン……!)


 声を出さずコクコクと頷きながら、クララは必死に心を落ち着かせる。


(ダメダメ!一旦リセットして……)


 クララの鎖骨辺りを抱いた腕が、脈動を敏感に察知するのではないか。こんなにもバクバクと心臓を高鳴らせて、コーエンにバレずに済ませるなど、不可能ではないか。そんなことを考える。


「――――見てた。すごかった」


 やっとの思いでクララはそう呟く。相変わらず心臓はうるさく騒いでいて、治まりそうな様子はない。

 本当は今、クララを抱き締めている優しい腕を、そっと抱き返したい。好きだと伝えてしまえたら良いのに、とそう思ってしまう。


(でも、そうしたらコーエンは?)


 もっとクララを夢中にさせるよう、振る舞うだろうか。それとも、素っ気なく距離を取るだろうか。大切な人が棲むその心の一部を、クララにも分け与えてくれる――――?

 あくまでクララは王太子選の駒の一つだ。
 けれど、クララは今なら、どんな駒にだってなりうる。

 それに駒を活かすも殺すもコーエン次第。今後の盤の運びに応じて、コーエンは必要な策を講じていくのだろう。


(でも、今はそれで良い)


 生まれて初めて抱いた恋心。それが仕組まれたものだとしても、大切にしたい。駆け引きや打算でボロボロにしたりせず、どんな形であれ守っていきたいと思う。


「クララ、こっち向いて」


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