【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 少し掠れたコーエンの声に心が切なく軋む。
 恐る恐る振り返れば、コーエンは穏やかに笑っていた。


「舞ってる間、ずっとおまえのこと考えてた」


 クララを再びギュッと抱き寄せながら、コーエンが言う。

 ふわりと香る汗の香り。燃えるように熱い身体。顔の辺りにあるコーエンの胸からは、クララに負けず劣らず早い、心臓の音が聞こえる。


「…………え?」


 コーエンの発した言葉が信じられなくて、クララはひっそりと息を呑む。


「……クララのことだけ考えてた。おまえに俺がどう見えるのか。どう思ってるのか考えてた」


 瞼の奥が燃えるように熱い。気を抜けば、今にも泣いてしまいそうだった。

 コーエンの本当の気持ちは、彼自身にしか分からない。だから、今発せられたコーエンの言葉は、クララが信じる限りにおいて、真実になるのだと思う。


「わたしも」


 蚊の鳴くような小さな声で、クララがポツリと漏らす。けれど、それでもコーエンには聞こえたのだろう。スリスリとクララの肩に頬擦りをしながら耳を寄せてくる。


「コーエンがわたしのために舞ってくれてたら良いのに、って……そう思ってた」


 コーエンの背を抱き締めながら、クララは恥ずかしくて堪らない。けれど、本音の一端が吐き出せて、心が少しだけスッキリする。コーエンに触れられることを嬉しく思う。


「あぁーーーーーーもうっ」


 コーエンは盛大なため息を吐き出したかと思うと、己の身体からクララを引き剥がす。

 やっぱり迷惑だったのだろうか。そんな風にショックを受けたのは一瞬のことだった。

 困ったように、けれど嬉しそうに頬を染め上げたコーエンが、クララを真っ直ぐに見つめていた。

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