Tepes(ツェペシュ)
部屋に戻った美奈は、ぼんやりと外を見つめていた。ルナの離れが見える。離れを見下ろすのが辛くて、美奈はカーテンを閉じた。家族の中に、ぽっかりと穴が開いたと感じていた。

「お姉…もう苦しくないよね…」

小さく、本当に小さく呟く。そう思うことでしか、この心を納めることが出来なかった。目を閉じれば、あの場面が…蘇ってしまいそうで、美奈は怖かった。葬式や火葬までの間、寝るたびにあの血を欲しがりにじり寄る異形の姉を、胸に杭を打たれ、叫ぶ姉を思い出しては一人、泣いていた。

「ヴラド…」

あの時、姉と自分の中にいるというもう一人の誰かが読んだ名前を、美奈は口にした。

「…貴方は…何者なの…」
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