Tepes(ツェペシュ)
「ヴラド様」

闇の中、真っ白い衣装の青年が目の前の黒づくめの男に声をかけた。

「…」

男は不機嫌そうに青年の方に振り向く。

「マーリア様を、何故あの時見逃したのですか?」
「…気まぐれだ」

その答えに、青年は肩を竦める。そんな様子を尻目に、男は天窓から注ぐ月明かりに目を細めた。

「…夢に逢いに行くか」

男はそう呟くと、ばさっとマントを翻して歩いていく。

「…難しい人だ」

青年はため息をつきながら、遠ざかる背中に呟いた…。
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