【電子書籍化】婚約破棄された伯爵令嬢ですが隣国で魔導具鑑定士としてみんなから愛されています~ただし一人だけ溺愛してくる~
 じゃ、お願いするわ、とハイケがカリーネに基板を手渡してきた。どうやらハイケもこの基板にはお手上げな様子。むしろ、関わりたくないのだろう。
 綿の手袋をはめていたカリーネであるが、その基板を手にした途端、白い手袋に煤がついてしまった。
 作業台の上にも紙を敷いてからハイケより預かった魔導回路を置く。
 大きな紙を広げた。現物を見ながら、回路図に落とし込む。これは、やろうと思えば誰でもできることだが、とにかく時間がかかる。それを短時間に正確にできる、というのがカリーネの能力の一つでもあった。
 恐らく、幼い頃からあの工場(こうば)を遊び場代わりにしていたということもあり、気付かぬうちに魔導回路を読み取る力がついていたのだろう。あの工場で働く者たちも、カリーネが来ると新しい魔導具を見せてくれたり、使わせてくれたり、と何かと可愛がってくれた。
 だからこそ、あの魔導パン焼き機を考えて作ったのだ。工場で働いている人たちの食事の準備が少しでも楽になるように、そして少しでも美味しいパンが手軽に食べられるように、と。そう思って考えた魔導パン焼き機。
 他の商会に真似をされた、という思いはあるけれど、それでもそれを必要としている者たちに届いて、役に立ってくれるのであれば、それはそれでいいのかな、と思っていた。だが、カリーネが許せないのは、魔導具を金儲けの道具として扱うこと。ハイケが修理しようとしていたこの基板を見た時に、なんか嫌な予感がした。
 経年劣化で必要な魔力量を溜めることができなくなった基板が暴走して、このように黒焦げになってしまうことはある。だが、この基板。経年劣化を起こすほど使い込まれた様子はない。それに先ほど銘板を確認したが、製造日は今から二か月前。となれば、この爆発は初期不良に該当しそうだ。

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