【電子書籍化】婚約破棄された伯爵令嬢ですが隣国で魔導具鑑定士としてみんなから愛されています~ただし一人だけ溺愛してくる~
「大丈夫だ。心配するな」
 ラーシュが答えれば、御者はほっと安心する。だが、安心できないのはカリーネの方だった。馬車が揺れた瞬間、ラーシュの方に身体が傾いてしまい、彼に抱き着いてしまったから。

「ごめんなさい、ラーシュさん」

「いや、気にするな。役得だ。カリーネ、こっちを向け」

 カリーネがその言葉に素直に従うと、すかさずラーシュは彼女の唇に自身のそれを重ねた。
 馬車が止まる。
 二人はゆっくりと身体を離した。

「着きましたよ」
 御者の言葉に、何事も無かったかのように礼を返したラーシュは、カリーネの荷物を手にして馬車を降りた。
 馬車が止まったのはハイケの工房の前。空は夕焼けに染められていて、もう少し時間が経てば、この辺りも闇に覆われることだろう。
 二人をおろした馬車はゆっくりと走り去っていく。

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