【コミカライズ】【電子書籍化】婚約破棄された伯爵令嬢ですが隣国で魔導具鑑定士としてみんなから愛されています~ただし一人だけ溺愛してくる~
 二人がどういう経緯を経てこのような仲になったのかということをフランは詳しく知らないが、それでもラーシュに義妹のことを頼んだ時に、仄かに期待していたわけでもある。
 きっとラーシュは覚えていないだろう。ロード伯の工場(こうば)と鉱山を見学のために訪れた時、彼の側にカリーネがいたことを。まだ幼い彼女。ラーシュの側にべったりとくっついて、彼から魔導具の様々な話を聞いていた。目をきらきらと輝かせ、まるでおとぎ話を聞いている子供のように。ラーシュもカリーネのような子供が珍しかったのだろう。しきりに褒めていた。
 あのときの出来事を、目の前の二人は覚えているのだろうか。
 フランは目を細め、そんな二人を見つめていた。

 馬車がゆっくりと止まり、ラーシュはカリーネを、フランはハイケをエスコートしてそこから降りる。
 今回のパーティは一般的な社交界とは異なる。魔導具認証制度を立ち上げ、その運用の成功を祝うためのパーティだ。いわゆる、祝賀会と呼ばれるもの。
 それでもダンスというものは嗜みのようで、そのための楽団は控えている。もちろんカリーネもダンスの一つや二つくらい踊ることはできるのだが、許されるのであれば今夜はそれを避けたいと思っていた。何しろこの場には、魔導具業界の著名人が集まっている。もちろん、委員会で顔を合わせている人物もいるが、工房主や商会長など、名前しか知らないような人物もいる。
 顔の広いラーシュに連れられ、カリーネは挨拶をする。どうやらカリーネの名前は独り歩きしていたようで、カリーネが名乗れば「ああ。あなたが、あの」と誰もが口にする。どんな噂を聞いているのか、気になるところではあったが、挨拶をする人が多いとのことで、ラーシュに連れられ次から次へと、移動をする。
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