【コミカライズ】【電子書籍化】婚約破棄された伯爵令嬢ですが隣国で魔導具鑑定士としてみんなから愛されています~ただし一人だけ溺愛してくる~
「だけど、お尻が痛くなるからね。そこだけは気をつけなさい。でも、そんなに長い時間ではないからね。少しは我慢しておくれ」
 リネーアは荷台の奥の方に進み、カリーネのトランクに腰をおろした。荷馬車には(ほろ)があるため、奥までいけば風に当たることも無い。だけどカリーネはわざと荷台の入り口付近に座り、足をぶらぶらとさせる。風邪が頬を撫でていくが、流れていく景色が面白い。

「カリーネ。そんなところにいたら危ないわよ」

「大丈夫よ、きちんと掴まっているから」

「もう。そういうところは本当にまだ子供なんだから」

 そんな姉の言葉に耳を貸さないカリーネは、流れていくこの王都の風景を楽しんでいた。子供たちがカリーネの姿を見つけては手を振ってくれる。だからもちろんカリーネも手を振り返す。そんな些細なことであるのに、どこか楽しい。そして、お尻から伝わってくる振動も、どこか心地よい。規則的な揺れに次第に瞼が重くなり始めた頃、ガタッと音を立てて荷馬車が止まった。あのまま眠っていたら、この荷台から落ちてしまっていたかもしれない。と思って、ぼんやり重い瞼を必死の思いでこじ開ける。
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