梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜

第三話

 翌年の春。
 琳伽(りんか)は十六歳、逞峻(ていしゅん)は十歳。
 その年も逞峻(ていしゅん)は梅の花には背が届かず、嫌がる逞峻(ていしゅん)琳伽(りんか)が抱きかかえ、梅の花のついた枝を折る羽目になった。

 更に翌年。
 琳伽(りんか)は十七歳、逞峻(ていしゅん)は十一歳。
 梅の花に手が届くか届かないかという瀬戸際であったが、結局逞峻(ていしゅん)は自分で梅の枝を折ることはできなかった。
 琳伽(りんか)逞峻(ていしゅん)を抱き上げようと伸ばした手を見て見ぬふりをして、「来年は必ず自分で折るから、今年は琳伽(りんか)が自分で折りなさい」と言い、拗ねて殿舎へ引っ込んでしまった。

 琳伽(りんか)十八歳、逞峻(ていしゅん)十二歳。
 (ようや)逞峻(ていしゅん)は自分で梅の花に手が届くようになり、折った梅を琳伽(りんか)に渡し、照れくさそうにその場を去った。

 そしてその翌年。
 琳伽(りんか)は十九歳、逞峻(ていしゅん)十三歳。
逞峻(ていしゅん)様、いつの間にか私の背丈を超えましたね」
「……男とはそういうものだ。琳伽(りんか)、梅の花はすぐにしおれてしまうから、次は梅の花を(かたど)った本物の(かんざし)を贈ろう」

 十三歳の少年の言葉に、琳伽(りんか)はしばし息を飲む。

 簪を贈るという行為には、「自分の伴侶になって欲しい」という意味がある。
 逞峻(ていしゅん)がその意味を知った上で、簪を贈ると言っているのかどうかは分からない。
 しかしいずれにしても、皇帝の妃である自分が皇子である逞峻(ていしゅん)から簪を贈られることを是とすることはできない。

 これまでだって梅の枝を簪に見立て、毎年のように逞峻(ていしゅん)から贈られていたと言うのに。
 いざ本物の簪を贈ると言った逞峻(ていしゅん)の言葉に、琳伽(りんか)は心乱されるのであった。
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