梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜
第六話
「朱花。輿の準備ができたかどうか、様子を見てきてくれる? 私も少し一人で、この梅華殿に最後の別れをしたいの」
「かしこまりました。また後程お迎えに参ります」
侍女の朱花を行かせたあと、琳伽は雨の降る内院に出た。
木の幹に手を当て、緋色の梅を見上げる。
二十歳の頃に皇帝から見初められ寵愛を受けたが、琳伽は子を産まなかった。子がいる妃は、後宮から出ることは叶わない。
(私にもし前皇帝陛下の子がいれば、このまま後宮に残されて逞峻様の近くに居られたのだろうか)
雨に濡れた梅の花にそっと触れながら、琳伽は逞峻の顔を思い浮かべた。琳伽が二十六になったということは、逞峻は二十歳。
この場所で梅の花を愛でた頃の逞峻は、琳伽に梅の簪を贈った逞峻は、もういない。
「張徳妃様、準備が整いました」
戻ってきた朱花が、琳伽に向かって礼をする。琳伽はもう一度梅を見上げ、それから朱花に向き直って笑顔を作った。
「朱花、ありがとう。参りましょう」
琳伽が一歩踏み出したその時、ふとそれまで降っていた雨が止まった。驚いた琳伽は、そのまま空を見上げる。
琳伽の目に入ったのは空や雲ではなく、傘だった。
「かしこまりました。また後程お迎えに参ります」
侍女の朱花を行かせたあと、琳伽は雨の降る内院に出た。
木の幹に手を当て、緋色の梅を見上げる。
二十歳の頃に皇帝から見初められ寵愛を受けたが、琳伽は子を産まなかった。子がいる妃は、後宮から出ることは叶わない。
(私にもし前皇帝陛下の子がいれば、このまま後宮に残されて逞峻様の近くに居られたのだろうか)
雨に濡れた梅の花にそっと触れながら、琳伽は逞峻の顔を思い浮かべた。琳伽が二十六になったということは、逞峻は二十歳。
この場所で梅の花を愛でた頃の逞峻は、琳伽に梅の簪を贈った逞峻は、もういない。
「張徳妃様、準備が整いました」
戻ってきた朱花が、琳伽に向かって礼をする。琳伽はもう一度梅を見上げ、それから朱花に向き直って笑顔を作った。
「朱花、ありがとう。参りましょう」
琳伽が一歩踏み出したその時、ふとそれまで降っていた雨が止まった。驚いた琳伽は、そのまま空を見上げる。
琳伽の目に入ったのは空や雲ではなく、傘だった。