梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜
第七話
(黄色の傘……梅の模様?)
後ろから傘をかざした人の方に琳伽が振り返ろうとすると、それを静止するように首元に太い腕が伸び、そのまま抱きすくめられる。
驚いた顔をした朱花がもう一度礼をして、足早に走り去った。
「張 琳伽」
「はい……」
琳伽の耳元で、低い囁き声が聞こえる。
朱花が驚いて走り去ったということは、この背後の男の正体はあの人しかいない。
「皇帝陛下。おやめください」
「琳伽……なぜ私に挨拶もなく去ろうとしたのだ」
「申し訳ございません。ですが私は前皇帝陛下の妃。もう既に後宮での役目は終わっております。どうぞお放しください」
腕の力が緩んだ隙に琳伽は抜け出し、一呼吸整えてから、うしろを振り返る。
皇帝の象徴である龍の刺繍の入った上衣、大帯にかかった碧の佩玉。傘を片手に立っていたのは、とうの昔に琳伽の背丈を超えた、二十歳になった逞峻であった。
「まだ時はあるだろう。ここでは雨に濡れる。中に入ろう」
「輿を待たせておりますので」
「遅れると伝えてある」
琳伽の返事を待たず、逞峻は琳伽の頭上に傘を寄せ、背中を押して殿舎の中へ入るように促した。
後ろから傘をかざした人の方に琳伽が振り返ろうとすると、それを静止するように首元に太い腕が伸び、そのまま抱きすくめられる。
驚いた顔をした朱花がもう一度礼をして、足早に走り去った。
「張 琳伽」
「はい……」
琳伽の耳元で、低い囁き声が聞こえる。
朱花が驚いて走り去ったということは、この背後の男の正体はあの人しかいない。
「皇帝陛下。おやめください」
「琳伽……なぜ私に挨拶もなく去ろうとしたのだ」
「申し訳ございません。ですが私は前皇帝陛下の妃。もう既に後宮での役目は終わっております。どうぞお放しください」
腕の力が緩んだ隙に琳伽は抜け出し、一呼吸整えてから、うしろを振り返る。
皇帝の象徴である龍の刺繍の入った上衣、大帯にかかった碧の佩玉。傘を片手に立っていたのは、とうの昔に琳伽の背丈を超えた、二十歳になった逞峻であった。
「まだ時はあるだろう。ここでは雨に濡れる。中に入ろう」
「輿を待たせておりますので」
「遅れると伝えてある」
琳伽の返事を待たず、逞峻は琳伽の頭上に傘を寄せ、背中を押して殿舎の中へ入るように促した。