夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて
本社近くになると、陽くんの同期だという営業部の田中さんが声を掛けてきた。
「よっ、陽介。おはよう。今日は本社出勤か?」
「おはよう、悠貴。そうなんだ、今日は夕方までこっちだよ」
「そっか、じゃあ昼飯一緒にどうだ?」
「いいよ。どこ行くか?」
二人の会話を静かに聞いていた私に田中さんが声を掛けてきた。
「えぇっと、確か…経理課の桂木さんだよね?なんで陽介と?もしかして、二人って付き合ってたりするの?」
「いや、こいつは幼馴染なんだよ」
「あっ、そうです。ご近所さんなんです」
二人して否定すると、にこやかな顔で返される。
「そっか…良かった。ちょっと良い雰囲気に見えちゃって、どうしようかなって考えちゃったよ」
「何がどうしようなんだよ」
田中さんの肩に手を掛け、ため息混じりで陽くんが離れて行こうとすると、田中さんは振り返りながら言う。
「桂木さん、またね」
「おう、乃愛。ちゃんと仕事頑張れよ」
私は離れて行く二人を見送った。