夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて

私は準備していた物を手に取ると、席に着いた岡田部長に声を掛ける。

「岡田部長。早速ですが、こちらが新しい名刺です。不足するようでしたら早めに声を掛けていただけると助かります。他、必要そうな物は揃えておいたと思うのですが足りない物があれば言ってください」

ペコッと頭を下げて自席に戻ろうとする。

「あ、あぁ。いろいろ準備してくれてありがとう。何かあれば声を掛けさせてもらうよ」

優しそうな笑顔で応えてくれ、今度の部長とも上手くやっていけると良いなと思っていると、声を掛けられ振り返る。

「ありがとう。それと…名前を聞いても?」

「あっ、すみません。経理課の桂木です」

「かつらぎさん…字はどう書くの?」

スッと名札を見せながら
「木へんに土が二つ、それと樹木の木です」

「そうか……ありがとう桂木さん」

目元が下がり優しい顔でお礼を言われて、ずっと年上の人なのに何故だかドキッとしてしまった。

「いえ」

改めてお礼を言われると思っていなかったので、続く言葉が浮かばず、席に着いた。

その後少しの間、今までに感じたことがないほどの視線を感じて顔を上げると岡田部長と目が一瞬合ったような気がした。

どこかで会ったことがある…?…なんてことないよね…

少し不思議な想いと懐かしさを感じていたからか、その夜に見た夢は私が迷子になり、たーくんにぶつかって一緒に母と叔母を探してもらうという初めて出会った日の夢だった。
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