夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて
京子の墓参りから5日後、本社に帰国後初出勤した日に彼女を見て驚いた。
初めは京子がそこにいるのだと思った。
すぐ近くにいる女性が出会った頃の妻の姿にそっくりすぎて、
幻でも見えたのか…
それほどまでの想いが残っていたのか…
やはり忘れられていなかったのか…そう思った。
自分の席に着くとその女性が名刺を持ってきてくれた。
心なしか声まで似ているように感じた。
名前を聞くと “桂木” と言われた。
そうか…先日会った京子の姉である桂木宮子さんのお嬢さんの乃愛ちゃんか…。
京子の姪の乃愛ちゃんは俺にもよく懐いてくれていて可愛い子だった。
京子のお葬式の日に人目に触れないように一人で泣いていたところに、静かに寄ってきて俺の頭を撫でてくれたことを思い出した。
きっとあの子は俺を慰めてくれたんだろう。哀しみにくれていたはずなのにその時だけは温かい気持ちになった。
あの子があの時居てくれなかったら、あの思い出がなかったら、もしかしたら今の俺はここにはいられなかったとも思う。
でも、どうやら彼女の方は俺を見ても叔父であることに気がついていないらしい。
小学校に入ったくらいの子だったから、覚えていないのも当然だろう。
それにしても本当に京子に似てる…似すぎていて思わず手を伸ばして触れたくなる。
近づいたら抱きしめたくなってしまいそうで…思わず「参ったな…」と小さく呟いて頭をかかえた。