夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて
法要の後に一緒に食事を取ることになり、改めて卓人さんを見てしまう。
まだ再会から2週間しか経っていないけど、今ここにいるこの人が会社ではバリバリ仕事をしている人と同一人物なのかと思ってしまったからだ。
父や母と話している様子は穏やかで、それでいて、少し…寂しそう…。
なぜだか、そう思ってしまった。
すると卓人さんが姿勢を正して私たちに頭を下げてきた。
「お義兄さん、お義姉さん、今日はありがとうございました。今まで日本を離れている間もいろいろと甘えてしまっていて、すみませんでした」
「そんなこと気にしないでいいのよ。ねぇ、卓人さん。今日を一つの区切りとして、これからのことを考えていって欲しいの」
「これから…ですか…」
父母と部長が話している内容に私は口を挟むことはせず、聞きながら先日見た夢を思い出していた。
部長と会った日の夜に見た迷子の夢に出てきたお兄さんは部長だったのではないかと思ったから。
お寺を出るときに部長に声をかけて確認すると、やはり迷子の私を助けてくれたのは部長だったとわかった。
「覚えてなかったの!?」と驚く母に言われたけれど、「どこまでが夢でどこから現実なのかわからなくなっちゃっただけだよ」と少し拗ねて言い返した。
だって、部長が…卓人さんが優しく声をかけてくれて、泣いていた私を抱き上げてくれたことは感触として肌が覚えていたから。