夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて
夢も現実も変わるもの
お盆が近づいてきた頃、自宅に帰ると母と卓人さんが仏壇がある和室で話している声が聞こえてきた。
「前に京子の位牌を家に持っていくか聞いたことがあったでしょう。あれ、気にしないでいいのよ。主人に言われて思ったんだけど、卓人さんが再婚することになるならお相手の方は困るだろうし、このまま家に置いておいていいのかも、なんて…」
「そんな再婚とかは考えていませんし、第一相手もいませんから、気にしないでください。ただ、まだ家は決めていなくて、すぐには持っていけないのでもうしばらくこちらで預かってください」
「あのね、京子のことだから、卓人さんにはそろそろ新しい生活を始めて欲しいと思っていると思うの。だから、そうなるなら京子は今のままここにいていいと思うのよ」
「いえ…できれば連れていきたいです。それに、いつまでも甘えているわけにはいかないです…」
俺から京子を遠ざけていたくせに、いざとなると離したくないなんて自分の都合だけを考える勝手な奴だと言われても仕方ないはずなのに、京子の姉はそんな俺にも優しくしてくれる。
「そう…。これからは自分の幸せのために生きることを考えてね」
「ありがとうございます」
義姉の言葉に目が潤み出し、それ以上の言葉が見つからなくなり俯いたとき襖が開き、乃愛が顔を出した。