夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて
「ただいま」
「おかえりなさい。ちゃんと手を洗ってきた」
「もうお母さんたら、もうそこまで子供じゃありません」
「夕飯仕上げてこなくちゃ」と宮子さんが立ち上がり部屋を出ていく。
何気ない日常を感じる母子の会話を聞き、気を取り直したところで乃愛に声をかけた。
「おかえりなさい、乃愛ちゃん。今日は遅かったね」
「ちょっと欲しいものがあって買い物してきたの」
私は来月の卓人さんの誕生日プレゼントを探しに行っていた。
何をプレゼントしたらいいのかすごく悩んでしまい、思ったより帰りが遅くなってしまった。
「卓人さんが今日来るって知ってたら寄り道しないで帰ってきたのに…」
会社ではあまり話せないので、家ではたくさんおしゃべりしたいと思っていたから、少し不貞腐れた感じで呟いた。
「なんだよ。俺が来るからって早く帰ってくることはないよ。乃愛ちゃんだっていろいろ用事も付き合いもあるだろうしさ。そんなに気をつかわなくていいんだよ」
卓人さんはポンと私の頭に手を置き、笑顔で応えてくれる。でも、その態度は子供に対してするような感じがしてつい言い返してしまう。
「気なんかつかってません。本当に会いたかっただけです」
言葉にしてから、なんて大胆なことを言ってしまったのかと恥ずかしくなり、思わず口に手を当てた。
「ありがとう。こんな俺に会いたいなんて嬉しいよ」
「こんなだなんて…」