夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて
「お前、部長のことは諦めろ。あの人には別の人がいるんだろう?俺じゃダメか?」
苦しいくらいにきつく抱きしめられてしばらく放心していると、家の中から会話が聞こえ玄関扉が開き卓人さんが出てきた。
ハッとして、陽くんの胸に手をつき離れるが、どうやら卓人さんに見られてしまったらしい。
「…乃愛…ちゃん…?」
私の名前を呼ぶ卓人さんの声が聞こえたが、私は卓人さんと陽くんから逃げ出すように家の中に飛び込んだ。
卓人さんの顔は見られなかった。
その日の私は混沌とした気持ちを引きずったままベッドに入ったが、いろいろなことを考えてしまい眠りにつくことはできなかった。
それでも朝はやってきて、熱もないのに仕事を休むなんて選択肢は私の中にはなく、会社に行く。