夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて

自席の引き出しにバッグをしまい、給湯室に向かいコーヒーをセットする。

毎朝のルーティンなのだが、今朝はいつもより手際が悪い。

考えることがいろいろなことがあったからか、人が入ってきた気配を感じなかった。

「…これからどんな顔して会えばいいのよ…はぁ…」と途中から声が出ていたようで背後から声をかけられる。

「どうした?」

「キャっ」

その声に驚き、持っていたカップを落としてしまった。

「桂木さん。大丈夫か?怪我はない?」

声の主である卓人さんが慌てて拾い集めようとしゃがんでくれる。

「だ、大丈夫です。自分で片付けますから…」と私もしゃがみ欠片を集めていると、指先が触れた。

指が触れただけでドキッとしてしまい、思わず手を引っ込めようとすると、その手を掴まれる。

一瞬だった…掴まれた手を引かれたと思った時には、私の唇が卓人さんの唇と重なった。
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