夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて

唇が離れると立てなくなった私の手を卓人さんが引き、立たせてくれると彼は給湯室から出ていく時に呟いた。

「ごめん…乃愛…悪かった」

ごめんって…何が…?

卓人さんにはアメリカから来た滝川さんがいるんじゃないの?
どうして私にキスなんてしたの?
この気持ちを封印するってやっと決心したんだよ…。
私はますます訳が分からなくなってしまい、しばらく自席には戻れなかった。

その日は1日まったく仕事に身が入らず、ミスの連続だった。

ランチに出れば財布を忘れ、紗英に支払いをさせてしまった。

ため息ばかりの私に理由を聞いてくることもなく、ただ見守ってくれる優しい友人は「心ここにあらず…だね。今度、乃愛がご馳走してね」と笑顔で言ってくれる。

話せる時がきたら紗英に聞いてほしいけど、今のぐちゃぐちゃな気持ちを説明できる状況ではなかったのでありがたかった。
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