雪の日
 半年前の大雪が降る日、准の兄の(じん)がバイク事故でこの世を去った。仁は、麗子が三年間交際していた恋人だった。
 雪は葬儀の日もまだ降り続いていた。
 傷ひとつない綺麗な顔をしていて、仁はまるで眠っているようだったが、いくら声を掛けても目を覚ますことはなかった。

『麗、俺じゃ駄目か?』

 人は絶望の淵に立たされると、思いもよらぬ言葉を口にするのだろうか。

『俺ら、もう会う理由ねぇじゃん。仁がいねぇんじゃ……』

 実家暮らしだった仁の家には当然家族がいて、准もいて、皆で一緒に食事をすることもあれば、准が麗子の隣でソファーに寝そべりながらテレビを見ることもあった。それはごく自然なことだった。
 半年後には本当の家族になるはずだったのだから――

『俺は、死んだ婚約者の弟……それだけじゃん。お前のこと大切に思ってたのは、仁だけじゃねぇから!』

 麗子は言葉を失い、呆然と立ち尽くした。
 准の言った言葉は、婚約者の弟以上の気持ちがあったということだろうか。
 互いに涙を流していたが、自分以上に涙を流す准を目にした麗子は、返す言葉を見つけられないまま准と別れていた。
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