寡黙なトキくんの甘い溺愛


泥だらけになった手や顔を、隠そうともせずに笑顔で俺に手を振る大橋。いつも同じ教室で、しかも席も近いっていうのに、まるで久しぶりに会えたかのような爽やかさだ。



「部活終わりだってのに、暑苦しいくらいの笑顔だな……」

「ちょっと、真顔で言われるとさすがに傷つくんだけど」



そう言って、下駄箱の中から靴を取り出す大橋。というか、なんで下駄箱にいるんだよ。サッカー部なら、部活前に靴に履き替えてるはずだろ。

その疑問に答えるかのように、大橋は「実はさ~」とここにいる理由を、呑気に話し始めた。



「明日、数学の小テストあんじゃん?でも教科書忘れちゃってさー。さすがに教科書はないとなーって、取りに来たんだよ。忘れ物しちゃってねー」



あははと笑う大橋に、通りすぎる女子が「バイバイ」と声を掛けている。中身がこんなに残念な奴と知ってるのか……外見に騙されてるんじゃないかと、少しだけ心配してしまう。

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