寡黙なトキくんの甘い溺愛

ドキドキ、尋常じゃない速さで脈を打つ私を、すごく平然とした態度で見るトキくん。どうやら、トキくんの方が何枚も上手みたい……。



「(またしずかちゃんに相談しよう……!でも、その前に……)」



しずかちゃん、大橋くん――二人のことを思い出す。そうだ、私は、まだまだやるべきことがある。まだ、途中だ。終わっていない。今まで私を支えてくれた人に、無事に芽は出たと、報告しないといけない。遅くなってごめん、待っていてくれてありがとう――って。



「トキくん、私……」



赤い顔は、もうどこかへ行った。目はきっと真剣に、今この場にいない二人を見ていると思う。そんな私の雰囲気を察してなのか、トキくんは全てを理解したと言わんばかりに「行っといで」と言った。



「相条さんと大橋、たぶん二人ともサボってると思う。あの二人のことだ。屋上にでも言って、大声で言い合ってるんじゃないかな?お互いのメリットデメリットをね」



ふふと笑ったトキくん。私もつられてふふと、笑い返す。するとトキくんが「はい」とまだ開けていない缶を、私に手渡した。

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