聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
死闘開始
マリオは、馭者台に横になったみたい。
気を抜いてはいけない。
軍用ナイフの柄に手を添えたまま、背中を背もたれに預けた。堅い木の感触は、座面とまったく同じである。
馭者台に寝転ぶマリオの影を見つめつつ、崖の方から絶えずきこえてくる川の流れる音に耳を傾ける。その内、マリオのイビキもそれに混じり始めた。
川の流れる音は、せせらぎななどからはかけはなれすぎている。フツーならせせらぎかもしれないけど、いまはすべてをのみこんでしまいそうなほどの轟音になっている。
正直なところ、アヤが、っていうかわたしがどこをどの程度加護していたのかはわからない。テキトーに力を放出していただけだから。だけど、昨日の今日でこれだけ異変が起っているのである。
今後、この国にはさらに異変や異常な事態が増えるに違いない。そうなれば、きっと多くの人々に影響を与えることになる。
それこそ、生死にかかわるのような影響を与えてしまう。
暗殺稼業で人を殺していたのは事実だけど、何の関係もない多くの人の命を奪ってしまうということはまた別の次元の話である。
そういうことをかんがえると、複雑な気持ちにならざるを得ない。
だけど、これもアヤやわたしが悪意を持ってしているわけじゃない。そもそも、わたしたちは偽の聖女だと大勢の人々の前で糾弾されたのである。
そこは、自分たち、いえ、わたしなりに覚悟を持たなければならない。
そんなことをかんがえていて、ハッとした。
しまった。疲れているという言い訳はしたくない。そんなこと、わかっているのだから。
一瞬か、それ以上かはわからない。とにかく、眠ってしまっていたのである。
やはり、心身ともになまってしまっている。
しまった……。
サッと血の気がひいた。
マリオのイビキどころか、彼の気配が完全に消えている。
無意識の内に、精神を集中している。馬車の周囲の光景を思い描きながら、マリオがどこにいるのかを必死で探る。
軍用ナイフを握りしめる手は、汗でじっとり湿っている。それを言うなら、額や背中も冷や汗が滲み出ている。
どこよ?どこにいるのよ?
焦っちゃダメ。焦りは、思考を妨げる。
そのとき、うなじの辺りがゾクッとした。この感覚は、前世で、ってわたし自身の前世だけど、とにかく前世で何度も体験している感覚である。
ありがたいことに、暗殺者のときだった感覚は、まだ息づいているみたい。だから馬車の扉がふっ飛び、銀色の軌跡が迷うことなくわたしに向かって来たときには、反対側の扉をぶち破って馬車の外へ逃れていた。
地面に片膝を付き、右手の軍用ナイフを握りなおした瞬間、馬車の屋根の上にマリオが現れた。彼は、屋根上からわたしを見下ろしている。左手に握っているのは、わたしのよりも幅広で厚みのある戦闘用ナイフである。
彼はその自慢であろうナイフをペロリとなめて見せるというくだらないパフォーマンスで、自分が余裕綽綽であることを示した。
それを、バカじゃないの?って思いながら見つめていると、またしても違和感と既視感に襲われた。
だけど、それもまた振り払った。
いまは、それどころじゃないから。
彼が馬車の屋根上からジャンプした。すごい勢いで飛びかかって来る。だけど、それは想定内の攻撃である。
片膝を付いた姿勢のまま、上空から加速をつけて振りおろされてきたナイフを、逆手持ちにかえて受け止めた。
「ガッ」
鈍い音が耳に心地いい。
受け止めたと同時に、片膝付きの姿勢から蹴りを繰りだした。
それは、彼の膝にヒットした。
だけど、それはまともには入らなかったみたい。そのわたしの蹴りを、読んでいたのである。彼は、地面に着地したと同時にうしろへ退いた。
間髪入れず、彼はまたナイフで攻撃してきた。それを紙一重でかわし、彼のナイフに空をきらせた。そのときには、わたしは彼のがら空きになっている胸元めがけてナイフを突き出した。
彼は、それも読んでいた。わたしのおろそかになっている足を狙い、蹴りを放って来た。わたしも負けてはいない。そんな蹴りは、わたしだってお見通しだもの。胸元へつきだしているナイフの軌道を突如かえた。ナイフを逆手持ちにしたまま、彼の腹部をえぐるように薙ぐ。そして、そのまままだ地面におろしていない彼の太腿に狙いを定め、振りおろした。
が、やはりこれも読まれていた。ナイフを握らない側の拳で、思いっきり右腕を殴って来た。それを、やはり紙一重でかわして彼の拳に空をきらせた。
それからがすさまじいナイフと体術の応酬戦となった。
攻撃、防御、ともに必死にならなければならない。もはや、余裕などどこにもない。
おそらく、マリオも同様だと思う。
気を抜いてはいけない。
軍用ナイフの柄に手を添えたまま、背中を背もたれに預けた。堅い木の感触は、座面とまったく同じである。
馭者台に寝転ぶマリオの影を見つめつつ、崖の方から絶えずきこえてくる川の流れる音に耳を傾ける。その内、マリオのイビキもそれに混じり始めた。
川の流れる音は、せせらぎななどからはかけはなれすぎている。フツーならせせらぎかもしれないけど、いまはすべてをのみこんでしまいそうなほどの轟音になっている。
正直なところ、アヤが、っていうかわたしがどこをどの程度加護していたのかはわからない。テキトーに力を放出していただけだから。だけど、昨日の今日でこれだけ異変が起っているのである。
今後、この国にはさらに異変や異常な事態が増えるに違いない。そうなれば、きっと多くの人々に影響を与えることになる。
それこそ、生死にかかわるのような影響を与えてしまう。
暗殺稼業で人を殺していたのは事実だけど、何の関係もない多くの人の命を奪ってしまうということはまた別の次元の話である。
そういうことをかんがえると、複雑な気持ちにならざるを得ない。
だけど、これもアヤやわたしが悪意を持ってしているわけじゃない。そもそも、わたしたちは偽の聖女だと大勢の人々の前で糾弾されたのである。
そこは、自分たち、いえ、わたしなりに覚悟を持たなければならない。
そんなことをかんがえていて、ハッとした。
しまった。疲れているという言い訳はしたくない。そんなこと、わかっているのだから。
一瞬か、それ以上かはわからない。とにかく、眠ってしまっていたのである。
やはり、心身ともになまってしまっている。
しまった……。
サッと血の気がひいた。
マリオのイビキどころか、彼の気配が完全に消えている。
無意識の内に、精神を集中している。馬車の周囲の光景を思い描きながら、マリオがどこにいるのかを必死で探る。
軍用ナイフを握りしめる手は、汗でじっとり湿っている。それを言うなら、額や背中も冷や汗が滲み出ている。
どこよ?どこにいるのよ?
焦っちゃダメ。焦りは、思考を妨げる。
そのとき、うなじの辺りがゾクッとした。この感覚は、前世で、ってわたし自身の前世だけど、とにかく前世で何度も体験している感覚である。
ありがたいことに、暗殺者のときだった感覚は、まだ息づいているみたい。だから馬車の扉がふっ飛び、銀色の軌跡が迷うことなくわたしに向かって来たときには、反対側の扉をぶち破って馬車の外へ逃れていた。
地面に片膝を付き、右手の軍用ナイフを握りなおした瞬間、馬車の屋根の上にマリオが現れた。彼は、屋根上からわたしを見下ろしている。左手に握っているのは、わたしのよりも幅広で厚みのある戦闘用ナイフである。
彼はその自慢であろうナイフをペロリとなめて見せるというくだらないパフォーマンスで、自分が余裕綽綽であることを示した。
それを、バカじゃないの?って思いながら見つめていると、またしても違和感と既視感に襲われた。
だけど、それもまた振り払った。
いまは、それどころじゃないから。
彼が馬車の屋根上からジャンプした。すごい勢いで飛びかかって来る。だけど、それは想定内の攻撃である。
片膝を付いた姿勢のまま、上空から加速をつけて振りおろされてきたナイフを、逆手持ちにかえて受け止めた。
「ガッ」
鈍い音が耳に心地いい。
受け止めたと同時に、片膝付きの姿勢から蹴りを繰りだした。
それは、彼の膝にヒットした。
だけど、それはまともには入らなかったみたい。そのわたしの蹴りを、読んでいたのである。彼は、地面に着地したと同時にうしろへ退いた。
間髪入れず、彼はまたナイフで攻撃してきた。それを紙一重でかわし、彼のナイフに空をきらせた。そのときには、わたしは彼のがら空きになっている胸元めがけてナイフを突き出した。
彼は、それも読んでいた。わたしのおろそかになっている足を狙い、蹴りを放って来た。わたしも負けてはいない。そんな蹴りは、わたしだってお見通しだもの。胸元へつきだしているナイフの軌道を突如かえた。ナイフを逆手持ちにしたまま、彼の腹部をえぐるように薙ぐ。そして、そのまままだ地面におろしていない彼の太腿に狙いを定め、振りおろした。
が、やはりこれも読まれていた。ナイフを握らない側の拳で、思いっきり右腕を殴って来た。それを、やはり紙一重でかわして彼の拳に空をきらせた。
それからがすさまじいナイフと体術の応酬戦となった。
攻撃、防御、ともに必死にならなければならない。もはや、余裕などどこにもない。
おそらく、マリオも同様だと思う。