聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
激闘
まさしく、命と命のやり取りである。
死力を尽くした真剣勝負というわけね。
こんなハードなときなのに、ワクワクとゾクゾク感がとまらない。それどころか、それらはどんどん増してゆく。死ぬかもしれないのに、ここで殺されるかもしれないのに、うれしくて面白くってたまらない。
居眠りをしてしまったときには、昔の感覚がなまってしまったかと思った。だけど、いまのところはなんとかやれている。これは、前世で必死に身につけたスキルである。それこそ、人一倍努力し、時間をかけた。その賜物である。
それにしても、アヤに憑依して自分のあらたな使命を、歩むべき人生を知ってから、鍛錬を続けていてよかった。
そう心から感じずにはいられない。
アヤのクレメンティ家の近くに住むある子爵が、ナイフのコレクターであった。そこから、軍用ナイフをこっそり盗みだした。
その軍用ナイフに豪華な装飾品がついているということはない。レアであったり高価であったりなんてこともない。実用性重視のシンプルなナイフである。何本か同じものがあったので、わざとこのナイフにした。
案の定、子爵は盗まれたことに気がつかなかった。
それが十歳の頃のことで、それから毎日、体力強化に努めて来た。
前世での鍛錬と同様のメニューをほぼ毎日こなしていることで、いまの動きが出来ている。
同時に、筋肉がつかないようにも気を配った。
筋肉モリモリの貴族令嬢って、まずいないでしょう?それも、聖女となればなおさらである。
もっとも、聖女と言っても古今東西いろいろいる。筋肉バカ系聖女がいるかもしれない。
それはそれで、面白いかもしれないけど。
ありがたいことに、アヤは筋肉がつきにくい体質である。だから、摂取する食べ物に少しだけ気を配るだけでよかった。
鍛えておいて本当によかった。本来のアヤだったら、馬車の中にいたときのマリオの一番最初の攻撃で、「ジ・エンド」だったはずよ。
それこそ、本来のアヤの五度目の人生通りに。
すさまじい応酬が続いているというのに、マリオは息一つ乱していない。それどころか、彼のワイルドな美形に笑みが浮かんでいることに気がついた。
だけど、それを視覚出来たということは、わたしも少しは余裕が出来てきたということかしら。
わたしもまた、自分が笑顔であることを感じた。もちろん、息も乱れてはいない。
暗黙の了解で、同時にバック転をして距離を置いた。
って、ちょっと待って。
アヤは弄ばれて殺された、のよね?
最初は、マリオがアヤの五度目の人生に終止符を打った馬車屋かと思った。
だけど、彼はただの小悪党なんかじゃない。すくなくともはした金を奪ったり女を弄んだり、そんな類のことをする悪党じゃない。
彼は、同業者だわ。
もちろん、アヤとではないわ。彼が男装をしていて、「じつは聖女なの」っていう展開はないはずだから。
わたし自身の前世の職業、つまり暗殺者よ。
しかも、凄腕の殺し屋よ。
ちょっと待ってよ……。
じゃあ、アヤは暗殺者に殺されたの?彼女の五度目の人生の終止符を打ったのは、暗殺者だったというわけ?
だとしたら、いったいマリオはだれに雇われているの?実行犯はマリオでも、彼を雇った黒幕はいったいだれ?
頭の中がごちゃごちゃしてしまっている。てっきり、ろくでなしの馬車屋に弄ばれて崖からポイされたとばかり思っていたから。
それが、まさかまさかの暗殺者ルート?
ポーカーフェイスを保っているものの、密かに動揺しまくっている。
わたしたちのような暗殺者は、他人の感情の機微に敏い。そのように訓練しているからである。
動揺していることを、彼に悟られてはならない。悟られたが最後、揺さぶられ、確実に仕留められる。
わたしの眼前で、マリオはムカつくほどさわやかな笑みを浮かべた。口笛を吹き、それからまたナイフをなめた。
「あんた、『聖女』だよな?」
そう尋ねてきた彼の声に、困惑の響きが含まれているのをきき逃さなかった。
だんまりを決め込んだ。
だいたいどうかんがえたって、こんな聖女いるわけないでしょう?ナイフを振りかざし、蹴りとか拳とか振るいまくる聖女なんているわけないわよ。
そう言ってやりたいのを、必死に我慢した。
「そんなことを尋ねるのなら、あなたこそ『馬車屋』、よね?」
しばらく睨み合った後、やり返してやった。
すると、ワイルドな美形ににんまりと笑みが浮かんだ。
来る……。
第二回戦のはじまりよ。
そして、熾烈なまでの激闘が再開された。
ナイフを閃かせ、蹴りを放ち、拳を振るう。ときにはバック転やジャンプでかわし、ときには距離を置いてやりすごす。
そうこうしている内に、内心で焦りはじめてきた。
どうかんがえても、このままではわたしが不利になる。
しょせんわたしは女。男の体力にかなうわけがない。
マリオは、わたし以上にそのことをわかっている。
だから、彼はわたしの体力が尽きるのを待っているのである。
死力を尽くした真剣勝負というわけね。
こんなハードなときなのに、ワクワクとゾクゾク感がとまらない。それどころか、それらはどんどん増してゆく。死ぬかもしれないのに、ここで殺されるかもしれないのに、うれしくて面白くってたまらない。
居眠りをしてしまったときには、昔の感覚がなまってしまったかと思った。だけど、いまのところはなんとかやれている。これは、前世で必死に身につけたスキルである。それこそ、人一倍努力し、時間をかけた。その賜物である。
それにしても、アヤに憑依して自分のあらたな使命を、歩むべき人生を知ってから、鍛錬を続けていてよかった。
そう心から感じずにはいられない。
アヤのクレメンティ家の近くに住むある子爵が、ナイフのコレクターであった。そこから、軍用ナイフをこっそり盗みだした。
その軍用ナイフに豪華な装飾品がついているということはない。レアであったり高価であったりなんてこともない。実用性重視のシンプルなナイフである。何本か同じものがあったので、わざとこのナイフにした。
案の定、子爵は盗まれたことに気がつかなかった。
それが十歳の頃のことで、それから毎日、体力強化に努めて来た。
前世での鍛錬と同様のメニューをほぼ毎日こなしていることで、いまの動きが出来ている。
同時に、筋肉がつかないようにも気を配った。
筋肉モリモリの貴族令嬢って、まずいないでしょう?それも、聖女となればなおさらである。
もっとも、聖女と言っても古今東西いろいろいる。筋肉バカ系聖女がいるかもしれない。
それはそれで、面白いかもしれないけど。
ありがたいことに、アヤは筋肉がつきにくい体質である。だから、摂取する食べ物に少しだけ気を配るだけでよかった。
鍛えておいて本当によかった。本来のアヤだったら、馬車の中にいたときのマリオの一番最初の攻撃で、「ジ・エンド」だったはずよ。
それこそ、本来のアヤの五度目の人生通りに。
すさまじい応酬が続いているというのに、マリオは息一つ乱していない。それどころか、彼のワイルドな美形に笑みが浮かんでいることに気がついた。
だけど、それを視覚出来たということは、わたしも少しは余裕が出来てきたということかしら。
わたしもまた、自分が笑顔であることを感じた。もちろん、息も乱れてはいない。
暗黙の了解で、同時にバック転をして距離を置いた。
って、ちょっと待って。
アヤは弄ばれて殺された、のよね?
最初は、マリオがアヤの五度目の人生に終止符を打った馬車屋かと思った。
だけど、彼はただの小悪党なんかじゃない。すくなくともはした金を奪ったり女を弄んだり、そんな類のことをする悪党じゃない。
彼は、同業者だわ。
もちろん、アヤとではないわ。彼が男装をしていて、「じつは聖女なの」っていう展開はないはずだから。
わたし自身の前世の職業、つまり暗殺者よ。
しかも、凄腕の殺し屋よ。
ちょっと待ってよ……。
じゃあ、アヤは暗殺者に殺されたの?彼女の五度目の人生の終止符を打ったのは、暗殺者だったというわけ?
だとしたら、いったいマリオはだれに雇われているの?実行犯はマリオでも、彼を雇った黒幕はいったいだれ?
頭の中がごちゃごちゃしてしまっている。てっきり、ろくでなしの馬車屋に弄ばれて崖からポイされたとばかり思っていたから。
それが、まさかまさかの暗殺者ルート?
ポーカーフェイスを保っているものの、密かに動揺しまくっている。
わたしたちのような暗殺者は、他人の感情の機微に敏い。そのように訓練しているからである。
動揺していることを、彼に悟られてはならない。悟られたが最後、揺さぶられ、確実に仕留められる。
わたしの眼前で、マリオはムカつくほどさわやかな笑みを浮かべた。口笛を吹き、それからまたナイフをなめた。
「あんた、『聖女』だよな?」
そう尋ねてきた彼の声に、困惑の響きが含まれているのをきき逃さなかった。
だんまりを決め込んだ。
だいたいどうかんがえたって、こんな聖女いるわけないでしょう?ナイフを振りかざし、蹴りとか拳とか振るいまくる聖女なんているわけないわよ。
そう言ってやりたいのを、必死に我慢した。
「そんなことを尋ねるのなら、あなたこそ『馬車屋』、よね?」
しばらく睨み合った後、やり返してやった。
すると、ワイルドな美形ににんまりと笑みが浮かんだ。
来る……。
第二回戦のはじまりよ。
そして、熾烈なまでの激闘が再開された。
ナイフを閃かせ、蹴りを放ち、拳を振るう。ときにはバック転やジャンプでかわし、ときには距離を置いてやりすごす。
そうこうしている内に、内心で焦りはじめてきた。
どうかんがえても、このままではわたしが不利になる。
しょせんわたしは女。男の体力にかなうわけがない。
マリオは、わたし以上にそのことをわかっている。
だから、彼はわたしの体力が尽きるのを待っているのである。