聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
なぜか彼の前から去ることが出来ず……
「じゃあ、あなたはどうするの?先程のわたしの忠告にしたがって、この国から出て行く?そうだわ。その前に、あなた自身どうなるかよね。わたしの暗殺に失敗したということが知れたら、マズいんじゃないの?」
「どうでもいいさ。ギルドには帰らない。きみの忠告にしたがうのであれば、どうせこの国とはおさらばだ。もともと暗殺者としてのプライドや責任感なんてものは持ち合わせてはいなかった。というよりかは、暗殺者としてどこかのだれとも知らない奴を消すのではなく、強い奴と戦いたかっただけだ。仕事を引き受けてきたのも、たいていは傭兵とか軍人とか騎士とか、そんな奴を殺すような案件ばかりだ。さっきも言った通り、きみの場合は、断れなかっただけだ。前金はもらっているし、どこか違う国に行ってまたギルドに所属してもいい。もしくは、強い奴を求めて旅をしてもいい」
なるほど……。
だから、前世のわたしのときも引き受けたのね。
でも、ちょっと待って。そのわりには、最初の一撃は本気だったわよ。
まぁ聖女の聖なる力に対抗するには、全力とまでいかなくってもある程度の覚悟と力は必要なのかもしれない。
もしもわたしが前世でアヤの暗殺を引き受けたのだったら、やはり最初の一撃は様子見をしたはずである。最初の一撃は、ある程度の力はふるったことでしょう。
「あなたって、ほんとうにおもしろいわ」
心からそう思った。
同時に、そんな自由な精神を持っていることがうらやましくなった。
さあ、もう行くのよ。
もう何度目か、自分に言いきかせた。
だけど、足が動くことはない。
自分でもおかしいことはわかっている。
たった一言「さようなら」と言い、馬に乗って立ち去ればいいのに。たったそれだけの行為が、なぜか出来ないでいる。
なんだかんだととりとめのないことを言い、会話を引き延ばしている。そうすることで、彼の前から去るタイミングをずらしている。
いいえ、去るきっかけを失おうとしている。
そのことに気がつき、自分でも驚いてしまった。
だったら?わたしは、いったいどうしたいの?彼とどうしたいの?
そのとき、ぽつぽつと雨粒を全身に感じた。と感じたときには、大雨になっていた。
空を見上げると、雨がまるで滝のように降り注いで来る。
やはり、聖女の加護がなくなったからね。
そして、彼に視線を戻した。戻した瞬間、足が動いていた。
彼が倒れていたからである。
「マリオッ、どうしたの?」
彼に駆け寄り、抱き起こした。
そのとき、彼が手で腹部をおさえていることに気がついた。その手をどけると、大量の雨水に血が混じっていることに気がついた。地面にじわりじわりと流れ落ちている。
そうだわ。戦いの最中、一度だけわたしのナイフが彼のどこかにヒットしたような感触があった。だけど、そうたいしたダメージはあたえられなかったと思った。
まさか腹部にヒットしていたなんて……。
「どうして言わなかったの?」
思わず、彼を責めていた。
自分が傷つけたくせに、である。
「アヤ」
彼は、薄目を開けた。
いまはもう、雨がすごすぎて瞼をまともに開けていられない。それから、音もすごいので彼の声もよくきこえない。
それでも、必死で彼の口の形を読んだ。
「マリオ・オッシーニは、わたしの本名だ」
彼は、わたしにそう伝えてから瞼を閉じた。
マリオ・オッシーニとの出会いは、最悪だった。
死力を尽くし、全力で持てるスキルを駆使した。それも、殺し合いの為である。
この出会いがまさかとんでもないことになるなんて、このときのわたしには想像もつかなかった。
このことは、おそらく聖女様もビックリのはずである。
正直なところ、聖女の力というものがどういうものなのか、いまだに理解出来ていない。少なくとも、守護したり加護したりという護る力がある、ということは知っている。
アヤが、というよりかはわたしが心の中で唱えるだけで、護ることが出来るようである。ということを、あの崖の川の轟音をきいてはじめて実感した。
その他にも、癒しや祝福の力があるようだ。
残念でならないのは、わたしにはまだそれらの力は使いこなせないということ。もちろん、アヤは使いこなせていたはずである。
加護や守護の力は、どうにか使いこなせていると思う。だけど、身近でよりわかりやすくて感じられそうな癒しや祝福については、おろそかにしていた。
たったいま、それを後悔している。
彼女の七度目とわたしの二度目の人生を生き残り、スローライフを迎え送る為には、彼女のスキルよりわたしのスキルの方がより効果的だと信じていた。だからこそ、七歳のアヤの体に憑依した頃から軍用ナイフを握って過酷な鍛錬を自分に強い、こなしたのである。
その何十分の一かでも、癒しの力の勉強をしておけばよかった。
これだと、完全に脳筋バカである。
マリオの止血をし、彼を馬車に押し込んだ。熱が出て来た。飲み水用の水をハンカチにかけ、それを額にのせた。
とりあえず、村か町に行かねばならない。いいえ、ダメね。薬草がありそうなところに行き、探さなければ。
彼を医師に診せるのは危険が伴う。出来れば、わたしがどうにかしたい。
かえすがえすも、聖女としての力が使えないことが口惜しいし残念でならない。
だけど、暗殺者としての知識はある。
わたし自身の前世では、暗殺をするのにまれに毒殺をすることがあった。それから、傷を負ったり病(やまい)になった際は自分で手当てを施した。その為、薬草の知識はある。即効性のある毒草やじわじわと命を削ってゆく毒草。一方で、熱や傷に効果のある薬草の知識も豊富にある。
一刻もはやく薬草を探さなくては。
「どうでもいいさ。ギルドには帰らない。きみの忠告にしたがうのであれば、どうせこの国とはおさらばだ。もともと暗殺者としてのプライドや責任感なんてものは持ち合わせてはいなかった。というよりかは、暗殺者としてどこかのだれとも知らない奴を消すのではなく、強い奴と戦いたかっただけだ。仕事を引き受けてきたのも、たいていは傭兵とか軍人とか騎士とか、そんな奴を殺すような案件ばかりだ。さっきも言った通り、きみの場合は、断れなかっただけだ。前金はもらっているし、どこか違う国に行ってまたギルドに所属してもいい。もしくは、強い奴を求めて旅をしてもいい」
なるほど……。
だから、前世のわたしのときも引き受けたのね。
でも、ちょっと待って。そのわりには、最初の一撃は本気だったわよ。
まぁ聖女の聖なる力に対抗するには、全力とまでいかなくってもある程度の覚悟と力は必要なのかもしれない。
もしもわたしが前世でアヤの暗殺を引き受けたのだったら、やはり最初の一撃は様子見をしたはずである。最初の一撃は、ある程度の力はふるったことでしょう。
「あなたって、ほんとうにおもしろいわ」
心からそう思った。
同時に、そんな自由な精神を持っていることがうらやましくなった。
さあ、もう行くのよ。
もう何度目か、自分に言いきかせた。
だけど、足が動くことはない。
自分でもおかしいことはわかっている。
たった一言「さようなら」と言い、馬に乗って立ち去ればいいのに。たったそれだけの行為が、なぜか出来ないでいる。
なんだかんだととりとめのないことを言い、会話を引き延ばしている。そうすることで、彼の前から去るタイミングをずらしている。
いいえ、去るきっかけを失おうとしている。
そのことに気がつき、自分でも驚いてしまった。
だったら?わたしは、いったいどうしたいの?彼とどうしたいの?
そのとき、ぽつぽつと雨粒を全身に感じた。と感じたときには、大雨になっていた。
空を見上げると、雨がまるで滝のように降り注いで来る。
やはり、聖女の加護がなくなったからね。
そして、彼に視線を戻した。戻した瞬間、足が動いていた。
彼が倒れていたからである。
「マリオッ、どうしたの?」
彼に駆け寄り、抱き起こした。
そのとき、彼が手で腹部をおさえていることに気がついた。その手をどけると、大量の雨水に血が混じっていることに気がついた。地面にじわりじわりと流れ落ちている。
そうだわ。戦いの最中、一度だけわたしのナイフが彼のどこかにヒットしたような感触があった。だけど、そうたいしたダメージはあたえられなかったと思った。
まさか腹部にヒットしていたなんて……。
「どうして言わなかったの?」
思わず、彼を責めていた。
自分が傷つけたくせに、である。
「アヤ」
彼は、薄目を開けた。
いまはもう、雨がすごすぎて瞼をまともに開けていられない。それから、音もすごいので彼の声もよくきこえない。
それでも、必死で彼の口の形を読んだ。
「マリオ・オッシーニは、わたしの本名だ」
彼は、わたしにそう伝えてから瞼を閉じた。
マリオ・オッシーニとの出会いは、最悪だった。
死力を尽くし、全力で持てるスキルを駆使した。それも、殺し合いの為である。
この出会いがまさかとんでもないことになるなんて、このときのわたしには想像もつかなかった。
このことは、おそらく聖女様もビックリのはずである。
正直なところ、聖女の力というものがどういうものなのか、いまだに理解出来ていない。少なくとも、守護したり加護したりという護る力がある、ということは知っている。
アヤが、というよりかはわたしが心の中で唱えるだけで、護ることが出来るようである。ということを、あの崖の川の轟音をきいてはじめて実感した。
その他にも、癒しや祝福の力があるようだ。
残念でならないのは、わたしにはまだそれらの力は使いこなせないということ。もちろん、アヤは使いこなせていたはずである。
加護や守護の力は、どうにか使いこなせていると思う。だけど、身近でよりわかりやすくて感じられそうな癒しや祝福については、おろそかにしていた。
たったいま、それを後悔している。
彼女の七度目とわたしの二度目の人生を生き残り、スローライフを迎え送る為には、彼女のスキルよりわたしのスキルの方がより効果的だと信じていた。だからこそ、七歳のアヤの体に憑依した頃から軍用ナイフを握って過酷な鍛錬を自分に強い、こなしたのである。
その何十分の一かでも、癒しの力の勉強をしておけばよかった。
これだと、完全に脳筋バカである。
マリオの止血をし、彼を馬車に押し込んだ。熱が出て来た。飲み水用の水をハンカチにかけ、それを額にのせた。
とりあえず、村か町に行かねばならない。いいえ、ダメね。薬草がありそうなところに行き、探さなければ。
彼を医師に診せるのは危険が伴う。出来れば、わたしがどうにかしたい。
かえすがえすも、聖女としての力が使えないことが口惜しいし残念でならない。
だけど、暗殺者としての知識はある。
わたし自身の前世では、暗殺をするのにまれに毒殺をすることがあった。それから、傷を負ったり病(やまい)になった際は自分で手当てを施した。その為、薬草の知識はある。即効性のある毒草やじわじわと命を削ってゆく毒草。一方で、熱や傷に効果のある薬草の知識も豊富にある。
一刻もはやく薬草を探さなくては。