聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
マリオと……
複雑でビミョーな気持ちである。それが、わたしを苛立たせる。
本当は、心と頭の片隅でかんがえ、決意しかけている。
真実を告げてもいいんじゃないの?
そんなふうに……。
それを思っているのは、たぶんアヤではなくわたし。つまり、カリーナ・ガリアーニ。
じゃあ、アヤは?アヤはどう思うかしら?いえ、思っているかしら。
アヤ、あなたのかんがえをきかせてちょうだいよ。どうすればいいか、教えてちょうだい。
無意識の内に、胸に手を当てていた。アヤの存在を確かめるように。
「アヤ?そうだった。すまない。きみも、わたしの介抱で疲れているに違いない、いくらでも時間はある。また明日、話をしよう」
「え、ええ。そうね」
マリオの提案に即座にのった。
「マリオ。あなたは、自分のことを「わたし」と「おれ」、どちらで呼ぶの?」
たしか暗殺者と知れる前、つまり馬車屋のふりをしていたときは、「おれ」と言っていた。言葉遣いも、もっとワルっぽかった。
「きみは、聖女様だからね。ちゃんとした言葉遣いをした方が、きみも安心だろう?」
「あなたって、やさしいのね」
思わず、笑ってしまった。けっして揶揄ったり茶化したりしているわけじゃない。
そういう細かい気遣いがうれしかったからである。
「ありがとう。でも、無理をしなくってもいいわよ。わたしは、どちらでもかまわないから」
「じゃあ、侯爵の前では貴族子息のままで通すよ。きみとのときだけ、ざっくばらんにさせてもらう」
「ええ、そうしてちょうだい。じゃあ、部屋に戻るわね。おやすみなさい」
立ち上がり、続き部屋への扉へ向かった。
「アヤ」
扉のノブに手をかけたとき、彼が名を呼んだ。
「ありがとう」
そして、彼はもう何十度目かのお礼を言った。
わたしは振り向かないままうなずき、扉を開けて自分の部屋へ入った。
ねぇ、アヤ。わたし、どうすればいい?彼にわたしたちのこと、話してもいい?
夢にでもいいから出て来てよ。お願いよ、アヤ。
閉めた扉に背中を預け、何度もアヤに呼びかけた。
もちろん、彼女が応えてくれるわけはない。
部屋の扉は、外からしか鍵をかけることが出来ない。厳密には、中からかけられるはずだったものが潰されているのである。続きの間の扉は、鍵自体ない。
窓もまた鍵がない。まあ、鉄格子があるので鍵など必要ないんだけど。
しかも、ここは二階。古城がそもそもこういう造りなのか、通常の建物の二階などよりはるかに高い。
ざっと見てみた。もしも鉄格子を外せたとしても、外壁に足場になるようなへこみやでっぱりがない。だけど、壁一面に蔦が這ってい。
もしかしたら。それを、利用出来るかしら?
そう思って鉄格子の間から手を伸ばして蔦に触ってみた。が、小さな子どもの体重くらいしか支えられそうにない。小柄で痩せている大人でも、負荷がかかりすぎる。
ということは、ロープが必要かしら。
もちろん、そんなものが手近にあるわけもない。
ここから落ちたらヤバいきしら。
それこそ、運がよくて骨折。運が悪ければ死ぬわね。
部屋の内外を確認してから、寝台に横になった。
マリオもまた、おなじようにチェックを行っているはずね。
彼との部屋の間の扉に鍵はない。だけど、彼は寝込みを襲ってくることはない。なぜか、そう確信出来る。
そう確信したことに、自分でも驚いてしまった。
それはともかく、もしも寝込みを襲って来るのなら、マリオではなく侯爵の方ね。
お願いだから、今夜だけはやめてちょうだい。
神経を張り詰め続けるには、今夜はぜったいにムリ。だから、今夜だけは寝かしてほしい。
心の底から願ってしまう。
瞼を開けていられない。
当然のことながら、愛用の軍用ナイフを枕の下に忍ばせている。
どれだけ疲れていても、それだけはぜったいに忘れない。
意識がじょじょにまどろんでいった。
そして、眠りに落ちた。
自分がどれだけたるんでしまっているのか、この朝充分思い知らされた。これでもうそれを思い知らされるのは何十度目かになる。
信じられないほど眠れた。これほど眠れたのは、いつ以来だろう。
昨夜食べたサンドイッチか葡萄酒に眠り薬でも入っていたのか、と一瞬疑ってしまったほどである。
いずれにせよ、言い訳にはならないわね。
眠り薬に気がつかずにそれが効いて眠っていたのだとしても、眠り薬で眠っていたわけじゃないにしても、どちらにしてもたるんでいるわけなのだから。
マットは硬すぎずやわらかすぎず、腰に負担がかからず背中も痛くならない。ふっかふかの布団はやさしく体全体を包んでくれる。枕の高さは首にぴったり。
完璧すぎて、寝台を離れたくない。
その思いを断ち切り、風呂に入って頭をしゃんとさせた。
続きの間の扉をノックすると、すぐに「どうぞ」と返って来た。
扉を開けると、なんとマリオは床に両手をついて腕立て伏せをしているじゃない。
本当は、心と頭の片隅でかんがえ、決意しかけている。
真実を告げてもいいんじゃないの?
そんなふうに……。
それを思っているのは、たぶんアヤではなくわたし。つまり、カリーナ・ガリアーニ。
じゃあ、アヤは?アヤはどう思うかしら?いえ、思っているかしら。
アヤ、あなたのかんがえをきかせてちょうだいよ。どうすればいいか、教えてちょうだい。
無意識の内に、胸に手を当てていた。アヤの存在を確かめるように。
「アヤ?そうだった。すまない。きみも、わたしの介抱で疲れているに違いない、いくらでも時間はある。また明日、話をしよう」
「え、ええ。そうね」
マリオの提案に即座にのった。
「マリオ。あなたは、自分のことを「わたし」と「おれ」、どちらで呼ぶの?」
たしか暗殺者と知れる前、つまり馬車屋のふりをしていたときは、「おれ」と言っていた。言葉遣いも、もっとワルっぽかった。
「きみは、聖女様だからね。ちゃんとした言葉遣いをした方が、きみも安心だろう?」
「あなたって、やさしいのね」
思わず、笑ってしまった。けっして揶揄ったり茶化したりしているわけじゃない。
そういう細かい気遣いがうれしかったからである。
「ありがとう。でも、無理をしなくってもいいわよ。わたしは、どちらでもかまわないから」
「じゃあ、侯爵の前では貴族子息のままで通すよ。きみとのときだけ、ざっくばらんにさせてもらう」
「ええ、そうしてちょうだい。じゃあ、部屋に戻るわね。おやすみなさい」
立ち上がり、続き部屋への扉へ向かった。
「アヤ」
扉のノブに手をかけたとき、彼が名を呼んだ。
「ありがとう」
そして、彼はもう何十度目かのお礼を言った。
わたしは振り向かないままうなずき、扉を開けて自分の部屋へ入った。
ねぇ、アヤ。わたし、どうすればいい?彼にわたしたちのこと、話してもいい?
夢にでもいいから出て来てよ。お願いよ、アヤ。
閉めた扉に背中を預け、何度もアヤに呼びかけた。
もちろん、彼女が応えてくれるわけはない。
部屋の扉は、外からしか鍵をかけることが出来ない。厳密には、中からかけられるはずだったものが潰されているのである。続きの間の扉は、鍵自体ない。
窓もまた鍵がない。まあ、鉄格子があるので鍵など必要ないんだけど。
しかも、ここは二階。古城がそもそもこういう造りなのか、通常の建物の二階などよりはるかに高い。
ざっと見てみた。もしも鉄格子を外せたとしても、外壁に足場になるようなへこみやでっぱりがない。だけど、壁一面に蔦が這ってい。
もしかしたら。それを、利用出来るかしら?
そう思って鉄格子の間から手を伸ばして蔦に触ってみた。が、小さな子どもの体重くらいしか支えられそうにない。小柄で痩せている大人でも、負荷がかかりすぎる。
ということは、ロープが必要かしら。
もちろん、そんなものが手近にあるわけもない。
ここから落ちたらヤバいきしら。
それこそ、運がよくて骨折。運が悪ければ死ぬわね。
部屋の内外を確認してから、寝台に横になった。
マリオもまた、おなじようにチェックを行っているはずね。
彼との部屋の間の扉に鍵はない。だけど、彼は寝込みを襲ってくることはない。なぜか、そう確信出来る。
そう確信したことに、自分でも驚いてしまった。
それはともかく、もしも寝込みを襲って来るのなら、マリオではなく侯爵の方ね。
お願いだから、今夜だけはやめてちょうだい。
神経を張り詰め続けるには、今夜はぜったいにムリ。だから、今夜だけは寝かしてほしい。
心の底から願ってしまう。
瞼を開けていられない。
当然のことながら、愛用の軍用ナイフを枕の下に忍ばせている。
どれだけ疲れていても、それだけはぜったいに忘れない。
意識がじょじょにまどろんでいった。
そして、眠りに落ちた。
自分がどれだけたるんでしまっているのか、この朝充分思い知らされた。これでもうそれを思い知らされるのは何十度目かになる。
信じられないほど眠れた。これほど眠れたのは、いつ以来だろう。
昨夜食べたサンドイッチか葡萄酒に眠り薬でも入っていたのか、と一瞬疑ってしまったほどである。
いずれにせよ、言い訳にはならないわね。
眠り薬に気がつかずにそれが効いて眠っていたのだとしても、眠り薬で眠っていたわけじゃないにしても、どちらにしてもたるんでいるわけなのだから。
マットは硬すぎずやわらかすぎず、腰に負担がかからず背中も痛くならない。ふっかふかの布団はやさしく体全体を包んでくれる。枕の高さは首にぴったり。
完璧すぎて、寝台を離れたくない。
その思いを断ち切り、風呂に入って頭をしゃんとさせた。
続きの間の扉をノックすると、すぐに「どうぞ」と返って来た。
扉を開けると、なんとマリオは床に両手をついて腕立て伏せをしているじゃない。