聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
応急処置
「無事か?大丈夫だったか?」
マリオが馬で駆けて来た。
「大丈夫じゃないわ。手伝って」
馭者と騎士の一人の傷の具合は、遠目に見た以上にひどいみたい。
思わず、二人に駆け寄っていた。
「いや、きみのことを尋ねたんだが」
マリオの声が背中にあたったけど、その彼も馬から飛び降りてわたし同様駆け寄って来た。
馭者は馬車から、騎士は馬からそれぞれ砂浜におろして止血を行った。
マリオも手際がいい。止血を行った後、遠乗り中にマリオに何かあってはと持参している止血に効く薬草を塗り込んだ。それから、消毒を行った。そして、傷に効く薬草を塗り込んでから包帯を巻いた。
包帯が足りそうにない。が、マリオが持っていた。自分の為にと持参して来ていたのである。
どうやら彼は、自分で使っているものをこまめに洗濯しているらしい。
その姿を想像すると、ちょっと可笑しくなった。
彼のお蔭で包帯を巻くことが出来たけれど、あくまでも応急処置にすぎない。
「すまない。危ないところを助けてもらった上に手当までしてもらって。心から感謝する」
無事な方の騎士が礼を言って来た。
その騎士は、体格がいい。太っているわけではない。筋肉質である。背はさほど高くはないが、乗馬服を通してでも筋肉がついていることがよくわかる。
彼は自分の剣と傷を負っているもう一人の騎士の剣を、馬の鞍にくくりつけている鞘に納めて戻って来た。
「そういうあなたは?あっ、腕に傷を負っていますね」
騎士の全身をよく見ると、右腕の袖のあたりか裂けてそのあたりに血がついている。
「かすり傷だ」
「いいえ。かすり傷でも化膿したら大変なことになります。利き腕ですしね」
彼に有無を言わさない。
彼の右腕をつかんでから、さっさと応急処置をした。いよいよもって包帯がない為、わたし自身のシャツの裾を切り裂き、それを巻いた。
「す、すまない」
「このようなものですみません」
彼と視線が合った。
品のいい美形だわ。金髪碧眼で全体的にやさしい顔つきである。年齢は、三十歳前後といったところかしら。
どこかの貴族の護衛に雇われている元騎士か何かかもしれない。剣の遣い方がうまいことと雰囲気から、騎士か兵士の経験があることは間違いはない。
その彼の視線が、わたしからマリオに向いた。その瞬間である。彼の品のいい美形にハッとした表情(もの)が浮かんだ。
マリオも彼を見ているが、マリオのワイルドな美形はポーカーフェイスのままとくにかわってはいない。
「応急処置です。ちゃんとした医師に診せた方がいいと思います」
騎士に声をかけたが、彼はそれが耳に入らなかったらしい。まだマリオを見ている。
そのマリオは、じっと見つめられて居心地が悪そうにしている。
もしかして、この人は男性を好きになるタイプの人かしら?
だとしたら、ちょっと残念かもしれない。
わたし的には、年長の落ち着いた男性が好みだから。
って、わたしってば何を言っているの?淑女なんですもの、そういうことはダメよ、ダメ。
「あの、大丈夫ですか?」
もう一度尋ねてみた。そこでやっと、彼の視線がマリオからわたしへ戻って来た。
「馬車の中の方は?様子をみましょうか?それと、あなたが斬った襲撃者はどうしますか?」
「そ、そうだった」
彼は馬車に駆け寄り、扉を開けて無事かどうかを尋ねた。すると、中から声がした。だけど、小さかったのでよくきこえなかった。
「わたしは、ヴァスコ・アレッシ。じつは、あるレディを訪ねる途中だったのだ。どうやら、情報がもれていたらしい」
彼は、砂浜の上でうつ伏せでうめき声を発している暗殺者に視線を向けた。
ということは、馬車に乗っているのはそこそこの身分の人物ということね。
「そうでしたか。それは災難でしたね。では、彼はどうしますか?雇われているでしょうから、だれに雇われているかききだすのでしたら……」
「いや、わかっている。厳密には、推測はしている。尋ねたところで、どうせ口は割らないだろう?」
マリオがヴァスコに尋ねると、彼は苦笑しながら答えた。
その通りよ。暗殺者は、ほとんどの場合仲介者を通して依頼を受ける。だから、尋ねたところで時間のムダというわけ。
依頼者のことを、まったく知らされていないでしょうから。
「では、とどめをさしますか?」
マリオの問いに、ヴァスコはわたしを見た。それから、馬車の方へさっと視線を走らせた。
「きみたちのお蔭でこちらに死者は出ていない。殺すのは……」
「わかりました。同じように応急処置をしておきます。そのあとは、そうですね。彼の運次第です」
そう。あの暗殺者は失敗したから、ほかの暗殺者に殺されるかもしれない。それ以前に、実際のところはろくに動けない。
この後、湖の畔かそれともほかの場所で野垂れ死んでしまうかもしれないし、傷や発熱で死んでしまうかもしれない。
すべては彼の運次第ね。
わたしの上っ面の言葉に、ヴァスコはホッとしたようだ。
マリオに手伝ってもらい、暗殺者も応急処置をした。
マリオが馬で駆けて来た。
「大丈夫じゃないわ。手伝って」
馭者と騎士の一人の傷の具合は、遠目に見た以上にひどいみたい。
思わず、二人に駆け寄っていた。
「いや、きみのことを尋ねたんだが」
マリオの声が背中にあたったけど、その彼も馬から飛び降りてわたし同様駆け寄って来た。
馭者は馬車から、騎士は馬からそれぞれ砂浜におろして止血を行った。
マリオも手際がいい。止血を行った後、遠乗り中にマリオに何かあってはと持参している止血に効く薬草を塗り込んだ。それから、消毒を行った。そして、傷に効く薬草を塗り込んでから包帯を巻いた。
包帯が足りそうにない。が、マリオが持っていた。自分の為にと持参して来ていたのである。
どうやら彼は、自分で使っているものをこまめに洗濯しているらしい。
その姿を想像すると、ちょっと可笑しくなった。
彼のお蔭で包帯を巻くことが出来たけれど、あくまでも応急処置にすぎない。
「すまない。危ないところを助けてもらった上に手当までしてもらって。心から感謝する」
無事な方の騎士が礼を言って来た。
その騎士は、体格がいい。太っているわけではない。筋肉質である。背はさほど高くはないが、乗馬服を通してでも筋肉がついていることがよくわかる。
彼は自分の剣と傷を負っているもう一人の騎士の剣を、馬の鞍にくくりつけている鞘に納めて戻って来た。
「そういうあなたは?あっ、腕に傷を負っていますね」
騎士の全身をよく見ると、右腕の袖のあたりか裂けてそのあたりに血がついている。
「かすり傷だ」
「いいえ。かすり傷でも化膿したら大変なことになります。利き腕ですしね」
彼に有無を言わさない。
彼の右腕をつかんでから、さっさと応急処置をした。いよいよもって包帯がない為、わたし自身のシャツの裾を切り裂き、それを巻いた。
「す、すまない」
「このようなものですみません」
彼と視線が合った。
品のいい美形だわ。金髪碧眼で全体的にやさしい顔つきである。年齢は、三十歳前後といったところかしら。
どこかの貴族の護衛に雇われている元騎士か何かかもしれない。剣の遣い方がうまいことと雰囲気から、騎士か兵士の経験があることは間違いはない。
その彼の視線が、わたしからマリオに向いた。その瞬間である。彼の品のいい美形にハッとした表情(もの)が浮かんだ。
マリオも彼を見ているが、マリオのワイルドな美形はポーカーフェイスのままとくにかわってはいない。
「応急処置です。ちゃんとした医師に診せた方がいいと思います」
騎士に声をかけたが、彼はそれが耳に入らなかったらしい。まだマリオを見ている。
そのマリオは、じっと見つめられて居心地が悪そうにしている。
もしかして、この人は男性を好きになるタイプの人かしら?
だとしたら、ちょっと残念かもしれない。
わたし的には、年長の落ち着いた男性が好みだから。
って、わたしってば何を言っているの?淑女なんですもの、そういうことはダメよ、ダメ。
「あの、大丈夫ですか?」
もう一度尋ねてみた。そこでやっと、彼の視線がマリオからわたしへ戻って来た。
「馬車の中の方は?様子をみましょうか?それと、あなたが斬った襲撃者はどうしますか?」
「そ、そうだった」
彼は馬車に駆け寄り、扉を開けて無事かどうかを尋ねた。すると、中から声がした。だけど、小さかったのでよくきこえなかった。
「わたしは、ヴァスコ・アレッシ。じつは、あるレディを訪ねる途中だったのだ。どうやら、情報がもれていたらしい」
彼は、砂浜の上でうつ伏せでうめき声を発している暗殺者に視線を向けた。
ということは、馬車に乗っているのはそこそこの身分の人物ということね。
「そうでしたか。それは災難でしたね。では、彼はどうしますか?雇われているでしょうから、だれに雇われているかききだすのでしたら……」
「いや、わかっている。厳密には、推測はしている。尋ねたところで、どうせ口は割らないだろう?」
マリオがヴァスコに尋ねると、彼は苦笑しながら答えた。
その通りよ。暗殺者は、ほとんどの場合仲介者を通して依頼を受ける。だから、尋ねたところで時間のムダというわけ。
依頼者のことを、まったく知らされていないでしょうから。
「では、とどめをさしますか?」
マリオの問いに、ヴァスコはわたしを見た。それから、馬車の方へさっと視線を走らせた。
「きみたちのお蔭でこちらに死者は出ていない。殺すのは……」
「わかりました。同じように応急処置をしておきます。そのあとは、そうですね。彼の運次第です」
そう。あの暗殺者は失敗したから、ほかの暗殺者に殺されるかもしれない。それ以前に、実際のところはろくに動けない。
この後、湖の畔かそれともほかの場所で野垂れ死んでしまうかもしれないし、傷や発熱で死んでしまうかもしれない。
すべては彼の運次第ね。
わたしの上っ面の言葉に、ヴァスコはホッとしたようだ。
マリオに手伝ってもらい、暗殺者も応急処置をした。