聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
マリオのそっくりさん
『見たことのない顔だ。すくなくとも、おれの知っている暗殺者ではない』
瀕死の暗殺者の応急処置をしながら、マリオが口の形だけで伝えてきた。
わたしも、前世で見かけたことがない。もっとも、わたしの場合は記憶が失われているだけかもしれないけど。
それに、暗殺者どうし複数で組むことはあまりない。こういうケースは稀である。ましてや、親交があったりということもない。
マリオが見かけたことのない暗殺者も、たくさんいるに違いない。
応急処置の間中、暗殺者は瞼を閉じて苦しそうにしていた。
このままここに放置すれば、彼は今夜中に死んでしまう。傷の痛みで苦しみ抜いて死ぬか、血の臭いにつられてやって来た獣に食い殺されるか……。
どちらが早いか、である。
「その尋ね人のレディがいるのは遠くなのですか?」
気の毒な暗殺者の末路を推測していると、マリオがそう尋ねているのがきこえてきた。
それをききながら、イヤな予感がしはじめた。
「いいや、そう遠くはない。この領地を治めているロメロ・マルコーニ侯爵の城だ」
そして、ヴァスコのその答えをきき、イヤな予感が的中したことを悟った。
「侯爵の?」
マリオはさすがである。ヴァスコらの訪ね人がわたしだとわかっても、素知らぬ風を装っている。
「侯爵は、独り者だときいていますが」
わたしも慎重にならざるを得ない。マリオ同様、さりげなさを装って尋ねた。
ヴァスコは、どうしてわたしが侯爵のもとに身を寄せていると知っているのだろうか。
そもそも、彼はどこで何をしているヴァスコ・アレッシなのかしら。それから、馬車の中にいる人は何者なの?
正体も含めて何も情報がない。だから、迂闊なことが言えないし出来ない。
「その侯爵のところに、客人がいてね。訪ねたいのはその客人というわけだ」
「ヴァスコ、二人は大丈夫なのか?」
そのとき、馬車の扉が開いた。
そこから痩せた長身の男性が出て来た。
「いけません。まだ刺客が潜んでいるかもしれません」
ヴァスコが振り返って近づこうとするも、男性の方が手を上げてそれを制しながら近づいて来た。
その近づいて来る彼の姿を見、心の底から驚いてしまった。
マリオにそっくりなのである。上等の布地の白色のシャツに、上等の布地の黒色のズボンをはいている。服やズボンの好みの色まで同じだなんて。
だけど、髪の色は違うわね。向こうは黒色だから。
それに、雰囲気もわずかに違っている気がする。
それにしても、顔は瓜二つだわ。見分ける方法は、右頬に刃傷があるかどうかくらいね。それと、顔色が悪すぎる。マリオではなく、マリオのそっくりさんの方がである。
病なのかしらっていうくらい、顔色が悪い。死人も驚いてしまうだろう。
思わず、マリオも見てしまった。
だけど、彼も近づいてきているそっくりさんを呆然と見ている。
なるほど。ヴァスコがマリオのことを、穴があくほど見つめていた理由がわかった。
そして、マリオそっくりの男性がマリオに気がついた。
足が止まったのがはやかったのか、それとも驚きの表情になったのがはやかったのかはわからない。とにかく、彼も自分のそっくりさんを呆然と見つめている。
世の中には自分に似た人がいるときくけど、こんなに似ている人がいるのかしら?
まるで双子みたい。
って、まさか以前読んだことのある小説の筋書きのまま、双子っていうことはないわよね?
その小説は、あまりにも暴力的だったしセクシーすぎた。わたしは好みだったけど、アヤにはきっと刺激的すぎるわよねと思いつつ、面白かったのでついイッキ読みしてしまった。
「ハハハッ、心底驚いてしまいましたよ。わたしは双子だったのか、と」
しばらく無言で見つめ合っていたけど、沈黙を破ったのはマリオである。
彼は、どうやら彼らに対しても貴族バージョンでいくらしい。
それはともかく、マリオは笑声をあげたわりには、その瞳は笑ってはいない。
彼が動揺しているのを感じる。
「ええ、わたしも同様です。世の中には、ほんとうに自分に似た人はいるものなのですね」
マリオ似の男性も苦笑しているけど、瞳をうかがうかぎり彼も動揺しているようである。
「お礼が遅れました。助けていただき、誠にありがとうございます。わたしは、ティーオ・ブロスキです」
その名を、すぐには思い出せなかった。
だけど、彼の品のよさから上流階級、それも超がつくほど上位の爵位の子息に違いないと確信した。
瀕死の暗殺者の応急処置をしながら、マリオが口の形だけで伝えてきた。
わたしも、前世で見かけたことがない。もっとも、わたしの場合は記憶が失われているだけかもしれないけど。
それに、暗殺者どうし複数で組むことはあまりない。こういうケースは稀である。ましてや、親交があったりということもない。
マリオが見かけたことのない暗殺者も、たくさんいるに違いない。
応急処置の間中、暗殺者は瞼を閉じて苦しそうにしていた。
このままここに放置すれば、彼は今夜中に死んでしまう。傷の痛みで苦しみ抜いて死ぬか、血の臭いにつられてやって来た獣に食い殺されるか……。
どちらが早いか、である。
「その尋ね人のレディがいるのは遠くなのですか?」
気の毒な暗殺者の末路を推測していると、マリオがそう尋ねているのがきこえてきた。
それをききながら、イヤな予感がしはじめた。
「いいや、そう遠くはない。この領地を治めているロメロ・マルコーニ侯爵の城だ」
そして、ヴァスコのその答えをきき、イヤな予感が的中したことを悟った。
「侯爵の?」
マリオはさすがである。ヴァスコらの訪ね人がわたしだとわかっても、素知らぬ風を装っている。
「侯爵は、独り者だときいていますが」
わたしも慎重にならざるを得ない。マリオ同様、さりげなさを装って尋ねた。
ヴァスコは、どうしてわたしが侯爵のもとに身を寄せていると知っているのだろうか。
そもそも、彼はどこで何をしているヴァスコ・アレッシなのかしら。それから、馬車の中にいる人は何者なの?
正体も含めて何も情報がない。だから、迂闊なことが言えないし出来ない。
「その侯爵のところに、客人がいてね。訪ねたいのはその客人というわけだ」
「ヴァスコ、二人は大丈夫なのか?」
そのとき、馬車の扉が開いた。
そこから痩せた長身の男性が出て来た。
「いけません。まだ刺客が潜んでいるかもしれません」
ヴァスコが振り返って近づこうとするも、男性の方が手を上げてそれを制しながら近づいて来た。
その近づいて来る彼の姿を見、心の底から驚いてしまった。
マリオにそっくりなのである。上等の布地の白色のシャツに、上等の布地の黒色のズボンをはいている。服やズボンの好みの色まで同じだなんて。
だけど、髪の色は違うわね。向こうは黒色だから。
それに、雰囲気もわずかに違っている気がする。
それにしても、顔は瓜二つだわ。見分ける方法は、右頬に刃傷があるかどうかくらいね。それと、顔色が悪すぎる。マリオではなく、マリオのそっくりさんの方がである。
病なのかしらっていうくらい、顔色が悪い。死人も驚いてしまうだろう。
思わず、マリオも見てしまった。
だけど、彼も近づいてきているそっくりさんを呆然と見ている。
なるほど。ヴァスコがマリオのことを、穴があくほど見つめていた理由がわかった。
そして、マリオそっくりの男性がマリオに気がついた。
足が止まったのがはやかったのか、それとも驚きの表情になったのがはやかったのかはわからない。とにかく、彼も自分のそっくりさんを呆然と見つめている。
世の中には自分に似た人がいるときくけど、こんなに似ている人がいるのかしら?
まるで双子みたい。
って、まさか以前読んだことのある小説の筋書きのまま、双子っていうことはないわよね?
その小説は、あまりにも暴力的だったしセクシーすぎた。わたしは好みだったけど、アヤにはきっと刺激的すぎるわよねと思いつつ、面白かったのでついイッキ読みしてしまった。
「ハハハッ、心底驚いてしまいましたよ。わたしは双子だったのか、と」
しばらく無言で見つめ合っていたけど、沈黙を破ったのはマリオである。
彼は、どうやら彼らに対しても貴族バージョンでいくらしい。
それはともかく、マリオは笑声をあげたわりには、その瞳は笑ってはいない。
彼が動揺しているのを感じる。
「ええ、わたしも同様です。世の中には、ほんとうに自分に似た人はいるものなのですね」
マリオ似の男性も苦笑しているけど、瞳をうかがうかぎり彼も動揺しているようである。
「お礼が遅れました。助けていただき、誠にありがとうございます。わたしは、ティーオ・ブロスキです」
その名を、すぐには思い出せなかった。
だけど、彼の品のよさから上流階級、それも超がつくほど上位の爵位の子息に違いないと確信した。