聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
えっ?聖女、なの?
「ブロスキ?まさか……」
マリオが、わたしのすぐ隣でつぶやいた。
頭の中でその名を唱えたときには思い出せなかったけど、そうやってマリオがつぶやいたことでその名が何であるかを、ティーオ・ブロスキが何者であるかを思い出した。
隣国ヴェッキオ皇国の皇族の名である。
嘘……。
じゃあ、彼は皇子殿下なの?
「ティーオ・ブロスキ皇太子殿下、お初にお目にかかります」
マリオが礼を取った。
皇太子殿下、なのね。
気品があるのはそのせいね。
じゃあマリオは、隣国の皇太子殿下に似ているってことになる。だったら、彼が隣国で仕事を請け負うようなことになれば、やりにくくなるかもしれないわね。
あっ、いっそのこと皇太子殿下の影武者を務めるのもアリかもしれないわ。
だって、髪の色以外そのままなんですもの。
って、マリオの仕事のことをかんがえている場合じゃないわよね。
「皇太子殿下、ご挨拶申し上げます」
ほんとうは右足をうしろへひいてスカートの裾を少し上げて挨拶しなければならないけど、なにせ乗馬ズボンを着用している。だから、わずかに腰を落とすにとどめた。
「どうかおやめください。その、いまは身分を隠していますので」
ずいぶんと物腰のやわらかい皇太子殿下よね。
マリオが姿勢を正したので、わたしもそれにならった。
「あらためて礼を言わせてください」
軽く頭を下げる皇太子殿下を見ながら、ほんっとうにマリオに似ているとつくづく実感してしまう。
「差し支えなければ、名前を教えてもらえませんか?」
「失礼いたしました。わたしは、マリオ・クレメンティと申します」
彼は、ここでも侯爵向けの設定を使うようである。つまり、わたしのお義兄さん役というわけ。
彼が名のった瞬間、皇太子殿下とヴァスコがハッとした表情になって顔を見合わせた。
ヴァスコは、侯爵のもとを訪れている女性に会いに行くと言っていた。
いま、かれらは「クレメンティ」という名に反応したはずである。
ということは、やはり彼らはわたしを尋ねて行くつもりだったのだと確信した。
「あー、彼女は……」
マリオもそれに気がついたみたい。言い淀みながら、わたしに視線を向けてきた。
まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。わざわざ隣国から訪れて来るということは、アヤ・クレメンティ公爵令嬢に、というよりかは聖女に会いに来ているという可能性が高い。
もっとも、アヤは近隣諸国でも美人で有名だから、「婚約者になってください」とか「是非とも王妃に」とかの可能性もなくはないんだけど。
婚約破棄されて、いまはフリーだし。
どちらにしたって、聖女であっても公爵令嬢であっても軍用ナイフを振り回して襲撃者に傷を負わせる、なんてことはまずありえない。
わたしったら、それをフツーにやってのけちゃった。
いまさら、それをなかったことになんて出来やしない。
仕方がないわよね。
「おそらく、わたしはあなた方の訪ね人だと思います。信じられないでしょうけど。わたしは、アヤ・クレメンティ。マリオは、腹違いの兄なのです」
「おお、あなたがアヤ・クレメンティ公爵令嬢。いえ。プレスティ国にいる二人の聖女の内の一人ですね」
名乗った途端、皇太子殿下が瞳を輝かせた。
両腕を伸ばしてきて、わたしの両手を握った。
その手がカサカサで、骨ばっていることにすぐに気がついた。
「は、はい。一応、そのつもりです」
皇太子殿下の手に力がこもったけれど、男性のわりには握力がほとんどない。
一方、ヴァスコはわたしの戦いっぷりを目の当たりにしている為、あたえられた衝撃がすごすぎたみたい。
口をあんぐり開け、ついでに瞼もカッと見開き、これぞ「びっくり」したときの表情をあらわしている。
気の毒なほどに、である。
わかっているわ、ヴァスコ。わたしは聖女らしくまったく見えない。
信じられないわよね?
あなただけじゃない。だれだって疑うはずだわ。マリオだって、いまだに尋ねてくるし。
「とりあえず、ケガ人を放置しておくわけにはいけません」
わたし自身のことはともかく、いろいろな意味で衝撃を受けてしまった。だから、ケガ人のことをすっかり忘れてしまっていた。
「ああ、そうでした。ヴァスコ、彼らを馬車の座席に」
「しかし、ティーオ様……」
「わたしなら大丈夫。聖女の加護かな?いまは調子がいいようだ。歩いてもいいくらいだよ」
「侯爵の城までしばらくかかります。馭者台にされては?わたしが馬車を馭しましょう」
マリオは、提案しつつケガ人に近づいた。
「すまない」
ヴァスコも近づき、二人でケガ人二人を馬車内に運びこんだ。
マリオが、わたしのすぐ隣でつぶやいた。
頭の中でその名を唱えたときには思い出せなかったけど、そうやってマリオがつぶやいたことでその名が何であるかを、ティーオ・ブロスキが何者であるかを思い出した。
隣国ヴェッキオ皇国の皇族の名である。
嘘……。
じゃあ、彼は皇子殿下なの?
「ティーオ・ブロスキ皇太子殿下、お初にお目にかかります」
マリオが礼を取った。
皇太子殿下、なのね。
気品があるのはそのせいね。
じゃあマリオは、隣国の皇太子殿下に似ているってことになる。だったら、彼が隣国で仕事を請け負うようなことになれば、やりにくくなるかもしれないわね。
あっ、いっそのこと皇太子殿下の影武者を務めるのもアリかもしれないわ。
だって、髪の色以外そのままなんですもの。
って、マリオの仕事のことをかんがえている場合じゃないわよね。
「皇太子殿下、ご挨拶申し上げます」
ほんとうは右足をうしろへひいてスカートの裾を少し上げて挨拶しなければならないけど、なにせ乗馬ズボンを着用している。だから、わずかに腰を落とすにとどめた。
「どうかおやめください。その、いまは身分を隠していますので」
ずいぶんと物腰のやわらかい皇太子殿下よね。
マリオが姿勢を正したので、わたしもそれにならった。
「あらためて礼を言わせてください」
軽く頭を下げる皇太子殿下を見ながら、ほんっとうにマリオに似ているとつくづく実感してしまう。
「差し支えなければ、名前を教えてもらえませんか?」
「失礼いたしました。わたしは、マリオ・クレメンティと申します」
彼は、ここでも侯爵向けの設定を使うようである。つまり、わたしのお義兄さん役というわけ。
彼が名のった瞬間、皇太子殿下とヴァスコがハッとした表情になって顔を見合わせた。
ヴァスコは、侯爵のもとを訪れている女性に会いに行くと言っていた。
いま、かれらは「クレメンティ」という名に反応したはずである。
ということは、やはり彼らはわたしを尋ねて行くつもりだったのだと確信した。
「あー、彼女は……」
マリオもそれに気がついたみたい。言い淀みながら、わたしに視線を向けてきた。
まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。わざわざ隣国から訪れて来るということは、アヤ・クレメンティ公爵令嬢に、というよりかは聖女に会いに来ているという可能性が高い。
もっとも、アヤは近隣諸国でも美人で有名だから、「婚約者になってください」とか「是非とも王妃に」とかの可能性もなくはないんだけど。
婚約破棄されて、いまはフリーだし。
どちらにしたって、聖女であっても公爵令嬢であっても軍用ナイフを振り回して襲撃者に傷を負わせる、なんてことはまずありえない。
わたしったら、それをフツーにやってのけちゃった。
いまさら、それをなかったことになんて出来やしない。
仕方がないわよね。
「おそらく、わたしはあなた方の訪ね人だと思います。信じられないでしょうけど。わたしは、アヤ・クレメンティ。マリオは、腹違いの兄なのです」
「おお、あなたがアヤ・クレメンティ公爵令嬢。いえ。プレスティ国にいる二人の聖女の内の一人ですね」
名乗った途端、皇太子殿下が瞳を輝かせた。
両腕を伸ばしてきて、わたしの両手を握った。
その手がカサカサで、骨ばっていることにすぐに気がついた。
「は、はい。一応、そのつもりです」
皇太子殿下の手に力がこもったけれど、男性のわりには握力がほとんどない。
一方、ヴァスコはわたしの戦いっぷりを目の当たりにしている為、あたえられた衝撃がすごすぎたみたい。
口をあんぐり開け、ついでに瞼もカッと見開き、これぞ「びっくり」したときの表情をあらわしている。
気の毒なほどに、である。
わかっているわ、ヴァスコ。わたしは聖女らしくまったく見えない。
信じられないわよね?
あなただけじゃない。だれだって疑うはずだわ。マリオだって、いまだに尋ねてくるし。
「とりあえず、ケガ人を放置しておくわけにはいけません」
わたし自身のことはともかく、いろいろな意味で衝撃を受けてしまった。だから、ケガ人のことをすっかり忘れてしまっていた。
「ああ、そうでした。ヴァスコ、彼らを馬車の座席に」
「しかし、ティーオ様……」
「わたしなら大丈夫。聖女の加護かな?いまは調子がいいようだ。歩いてもいいくらいだよ」
「侯爵の城までしばらくかかります。馭者台にされては?わたしが馬車を馭しましょう」
マリオは、提案しつつケガ人に近づいた。
「すまない」
ヴァスコも近づき、二人でケガ人二人を馬車内に運びこんだ。