聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
皇太子襲撃の謎
当然、マリオとわたしも皇太子殿下がわたしを訪れることなど知らない。
ということは、暗殺者たちを雇った人物は、侯爵を通じて知ったのかもしれない。
暗殺者たちは、国境を越えたプレスティ国で待ち構えていた。プレスティ国の暗殺者を装っている可能性はある。なにせ街道から大きく外れている。両国の警備隊が詰めているわけではない。いちいち通行人を調べたり詮索したりする者はいない。
「暗殺者を雇った黒幕に心当たりがあるんですよね?黒幕の候補は、複数いるようですが……。その中で、侯爵と親交のある人はいますか?」
「どうせ皇子たちやその派閥ですよね?あるいは、皇太子の地位を欲していたり皇太子を意のままに操りたい人物、とか」
わたしにつづいてマリオが問うと、ヴァスコは皇太子殿下とまた顔を見合わせた。
「そのどちらもかんがえられる。しかし、残念ながらマルコーニ侯爵の交友関係まではわからない」
そうでしょうね。
それにしても、皇太子殿下がどうかなったところで侯爵にメリットがあるのかしら?
報酬をもらえるとか、地位や土地をあたえられるとか……。
お金にしろ地位や土地にしろ、侯爵がそういうものを欲しているとはかんがえにくいのだけれども。
そうこうしている間に、侯爵の居城が見えて来た。
「とりあえず、わたしたちはあなたたちの正体を知らない。あなたたちがケガ人を連れて往生しているところに出会った、ということにしませんか?様子をみたほうがいいと思います。殿下、よろしいでしょうか?」
「も、もちろん」
わたしの提案に、皇太子殿下が同意してくれた。ヴァスコも、うなずいてくれた。
そして、わたしたちは城に戻った。
侯爵は連れもって戻ってきたわたしたちを見ても、とくに驚いた様子もなくポーカーフェイスを保ったまま自己紹介をしあった。それから、ヴァスコとマリオの話をきいてケガ人を客間に運び入れた。さらには、わたしたちのときと同様に、馬車や馬を厩舎に連れて行きもした。
手負いの暗殺者は、侯爵が担いで地下牢に運びこんだ。
そのときはじめて、この城に地下牢があることを知った。
マリオも知らなかったようだ。どうせ彼は城の中をくまなく探検、もとい探ったに違いないでしょうに。
不思議だったのは、侯爵が皇太子殿下とマリオを見たときの反応である。
たしかに、驚きはした。だけど、それが演技だということにすぐに気がついた。もしかすると、気のせいだったのかもしれない。あるいは、ポーカーフェイスを必死に保っていたのかもしれない。
それにしても、これだけ顔が同じで反応が薄すぎるというのはどうだろうか。
一方でマリオとわたしは、城に連れて戻った人たちが隣国の皇太子殿下と近衛隊の副隊長であると知らされ、それなりに演技をした。そして、彼らの訪問の理由を知らされ、さらに驚いた演技をした。
それから、わたしは自分には癒しの力はないと伝えつつ、気の毒さと申し訳ないという演技をしてしめくくった。
とりあえずは、わたしが皇太子殿下の役に立てるわけではない。それだけは動かしようのない事実なのだから。
ケガ人のこともある為、皇太子殿下は一泊することになった。もともと、わたしに癒しを頼むつもりだったので、湖の近くの村で投宿するかもしれないとヴァスコのお兄さんやアレッシ家の人々には話をしているらしい。
夕食までの間、マリオと二人であらためてケガ人の様子をみた。
ヴァスコの部下の近衛隊の隊士も馭者も、命に別状はない。だけど、もうしばらくは寝かしておいた方がいい。
それから、地下牢に向かった。
皇太子殿下を襲撃した暗殺者といえど、助けたからには死なせるわけにはいかない。
侯爵に声をかけようと思ったけど、彼は皇太子殿下とヴァスコの対応に追われている。だから、声をかけるのはやめて地下牢の鍵を勝手に借りた。
その鍵を、彼が他の鍵などといっしょに書斎にあるフックにかけているのをチェックしておいたのである。
一人で行こうとしたけど、マリオもついてきた。
皇太子殿下は客間で休憩していて、ヴァスコは付き添っているという。
いつもだったら様子を見に行くくらい一人で大丈夫のはずなのに、このときはなぜか彼についてきてもらいたかった。
だから、素直について来て欲しいとお願いをした。
地下牢へは、食料貯蔵庫脇の扉から入って石段を降りなければならない。湿気が多い。湿った臭いにまじり、血臭や死臭がするのは、わたしの感覚がおかしいのだろうか。
壁のところどころにランプが据え付けられていて、そのどれにも灯りがついている。
それこそ、ずっと使われているような感じがする。
「どういうことだと思う?」
先に石段を下りるマリオが、振り向きもせずに尋ねてきた。
いまの彼の問いが、何に対する問いかはわからなかった。
わたしはいま、いろいろなことが「どういうことなの?」と困惑しまくっているからである。
「どういうことって?」
だから、そう問い返した。
ということは、暗殺者たちを雇った人物は、侯爵を通じて知ったのかもしれない。
暗殺者たちは、国境を越えたプレスティ国で待ち構えていた。プレスティ国の暗殺者を装っている可能性はある。なにせ街道から大きく外れている。両国の警備隊が詰めているわけではない。いちいち通行人を調べたり詮索したりする者はいない。
「暗殺者を雇った黒幕に心当たりがあるんですよね?黒幕の候補は、複数いるようですが……。その中で、侯爵と親交のある人はいますか?」
「どうせ皇子たちやその派閥ですよね?あるいは、皇太子の地位を欲していたり皇太子を意のままに操りたい人物、とか」
わたしにつづいてマリオが問うと、ヴァスコは皇太子殿下とまた顔を見合わせた。
「そのどちらもかんがえられる。しかし、残念ながらマルコーニ侯爵の交友関係まではわからない」
そうでしょうね。
それにしても、皇太子殿下がどうかなったところで侯爵にメリットがあるのかしら?
報酬をもらえるとか、地位や土地をあたえられるとか……。
お金にしろ地位や土地にしろ、侯爵がそういうものを欲しているとはかんがえにくいのだけれども。
そうこうしている間に、侯爵の居城が見えて来た。
「とりあえず、わたしたちはあなたたちの正体を知らない。あなたたちがケガ人を連れて往生しているところに出会った、ということにしませんか?様子をみたほうがいいと思います。殿下、よろしいでしょうか?」
「も、もちろん」
わたしの提案に、皇太子殿下が同意してくれた。ヴァスコも、うなずいてくれた。
そして、わたしたちは城に戻った。
侯爵は連れもって戻ってきたわたしたちを見ても、とくに驚いた様子もなくポーカーフェイスを保ったまま自己紹介をしあった。それから、ヴァスコとマリオの話をきいてケガ人を客間に運び入れた。さらには、わたしたちのときと同様に、馬車や馬を厩舎に連れて行きもした。
手負いの暗殺者は、侯爵が担いで地下牢に運びこんだ。
そのときはじめて、この城に地下牢があることを知った。
マリオも知らなかったようだ。どうせ彼は城の中をくまなく探検、もとい探ったに違いないでしょうに。
不思議だったのは、侯爵が皇太子殿下とマリオを見たときの反応である。
たしかに、驚きはした。だけど、それが演技だということにすぐに気がついた。もしかすると、気のせいだったのかもしれない。あるいは、ポーカーフェイスを必死に保っていたのかもしれない。
それにしても、これだけ顔が同じで反応が薄すぎるというのはどうだろうか。
一方でマリオとわたしは、城に連れて戻った人たちが隣国の皇太子殿下と近衛隊の副隊長であると知らされ、それなりに演技をした。そして、彼らの訪問の理由を知らされ、さらに驚いた演技をした。
それから、わたしは自分には癒しの力はないと伝えつつ、気の毒さと申し訳ないという演技をしてしめくくった。
とりあえずは、わたしが皇太子殿下の役に立てるわけではない。それだけは動かしようのない事実なのだから。
ケガ人のこともある為、皇太子殿下は一泊することになった。もともと、わたしに癒しを頼むつもりだったので、湖の近くの村で投宿するかもしれないとヴァスコのお兄さんやアレッシ家の人々には話をしているらしい。
夕食までの間、マリオと二人であらためてケガ人の様子をみた。
ヴァスコの部下の近衛隊の隊士も馭者も、命に別状はない。だけど、もうしばらくは寝かしておいた方がいい。
それから、地下牢に向かった。
皇太子殿下を襲撃した暗殺者といえど、助けたからには死なせるわけにはいかない。
侯爵に声をかけようと思ったけど、彼は皇太子殿下とヴァスコの対応に追われている。だから、声をかけるのはやめて地下牢の鍵を勝手に借りた。
その鍵を、彼が他の鍵などといっしょに書斎にあるフックにかけているのをチェックしておいたのである。
一人で行こうとしたけど、マリオもついてきた。
皇太子殿下は客間で休憩していて、ヴァスコは付き添っているという。
いつもだったら様子を見に行くくらい一人で大丈夫のはずなのに、このときはなぜか彼についてきてもらいたかった。
だから、素直について来て欲しいとお願いをした。
地下牢へは、食料貯蔵庫脇の扉から入って石段を降りなければならない。湿気が多い。湿った臭いにまじり、血臭や死臭がするのは、わたしの感覚がおかしいのだろうか。
壁のところどころにランプが据え付けられていて、そのどれにも灯りがついている。
それこそ、ずっと使われているような感じがする。
「どういうことだと思う?」
先に石段を下りるマリオが、振り向きもせずに尋ねてきた。
いまの彼の問いが、何に対する問いかはわからなかった。
わたしはいま、いろいろなことが「どういうことなの?」と困惑しまくっているからである。
「どういうことって?」
だから、そう問い返した。